企業のグローバル化と賃金制度の課題(3)

先回、年齢に依存しない新しい賃金体系を導入した企業の事例を述べたが、それでも多くの課題を残している。
世の中の変革が早くなればなるほど、企業の継続的な成長にとってマネジメント体制の見直しは臨機応変にすべきであろう。
一方で、経営者として忘れてはならないことは、企業は株主のものであると同時に「社会の公器」であり、そこには従業員一人一人の力により企業が成り立っているということである。

今回のコラムでは、前事例の更なる改善方法を考察してみることとする。

第一に「管理職にならないと給与ランクが上がらない」という問題に関しては、「管理職」「非管理職」共に、昇格のチャンスを与える仕組みづくりが重要である。
すなわち、この2つの職域コースを設けることだけではなく、各職域の中で給与ランクを細分化する。

まず「管理職域」をみてみよう。
企業の意思決定速度を増すには、管理職の階層は出来る限り少ない方が有利である。
たとえば「部長」一人によって管理される組織であれば、部長が全ての決定権を持てばよい。しかし、組織階層と給与体系上は「部長」「課長」「係長」「主任」の4ランクを設ける。これによって昇進しようとするモチベーションも生まれてくるであろう。
ただし、前提条件として各管理職の管理人数はあらかじめ決める必要があり、むやみにポジションを増やせと言う話ではない。
会社の規模にもよるが、1部長が管理可能な課長数は3名~5名、1課長が管理する係長は5名~10名、1係長が管理する主任と一般職は15名以内と言うように、被管理人数の目安は明記なルールとして必要である。

ただし、組織の都合で管理職を安易に増やすわけにもいかないし、また本人資質により管理職に不向きな人材もいる事を意識した賃金体系を作ることも必要である。

すなわち「非管理職」においても、その職務に特化した才能を発揮し会社に貢献する従業員が存在していることを忘れてはならない。
これが「専門職」制度の設定につながる。どの部門であっても、いわゆる「その道に精通した」人材は存在しており、業務の幅は狭いながらも多くの経験と深い知識と巧みな知恵を有している。
これらの人材に対して、例えば「専門職A(部長クラス)」「専門職B(課長クラス)」「専門職C(係長クラス)」「専門職D(主任クラス)」という給与ランクを作ることで、非管理職の仕事に対するモチベーションは明らかに向上するものと思われる。 「管理職」「非管理職(=専門職)」それぞれの職域において、実績を出せば昇進、昇格が出来るという制度を設けることによって仕事へのモチベーションが高揚し、結果として企業業績の向上に結び付いていけるものと考えられる。
単純に言い換えれば、管理職域では「年俸制」の導入といっても過言ではなく、実績が伴わなければ降格もあり得るという賃金体系である。

次に、管理職における「役職定年」後の給与処遇の問題がある。
企業が常に活性化し成長していくためには若いメンバーとの世代交代はどの業種業態でも必要不可欠なものであり、事例の56歳役職定年制度は容認できるだろう。
しかし問題は、役職を解かれた後の当人への処遇である。処遇と言うのは給与と職務を含めた両面であり、定年までの人生設計といっても過言ではない。当人にしてみれば重責の役職を解かれた安堵感もあるかもしれないが、給与低下や周囲からの態度の変化に戸惑うこともあろう。
さらに、働く気力を失うとするなら、当人にとっても家族にとっても周囲の従業員にとってもプラスの作用は考えられない。また、管理職を勤め上げてきた人間は管理者としての資質や知識、知恵を兼ね備えておりプライドも高いだろう。
このような人材を4年間も活用しないのは会社にとっても大きな損失であると考えられる。

この対応策としては、以下が考えられる。
  1. 職域を越えて、前述の「専門職」として能力を発揮してもらう。 この場合、管理職で長年経験した者が、「専門職位」のどのランク(A~D)に属するのかの評価基準を明確にする必要がある。この場合、一旦は給与が下がってもまた上がるチャンスが与えられる。
  2. 子会社や他事業部への異動。全社的なスキルアップが図れる才能の持ち主ならば、「プロジェクトリーダー」という職務の与え方で、事業部や部門を越えた活動に展開することが可能である。
  3. この場合のプロジェクト・オーナーは事業部長クラスより上位の者が適している。 転職活動への支援。自社のみならず業界全体の活性化のために、転職の支援(退職金の割り増し、企業紹介など)を実施する。

いずれにしても、従業員の誰から見ても「公平な処遇」であることが重要である。すなわち、上位者による個人的な感情での「特例は認めない」ことが賃金体系確立のためには最重要である。

今後「選択と集中」経営の時代から、企業のグローバル化を加速させ得意分野での「多角化」経営をすることにより、経営リスク分散をさせながら増収増益を目指す必要が生じてくる。
その際に経営者にとって留意すべき点が、従業員に対する「夢」の提示(=中長期事業計画)と、その実現に向けての従業員モチベーションのアップに繋がる「賃金制度」の改定である。

(産業能率大学 経営学部 教授  三村 孝雄)

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公開日:2014年08月14日(木)

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