宿泊産業に迫られるグローバル対応と必要なダイバーシティへの認識 (4)

今回は、ムスリムと共に働くという点について考えてみたい。というのも、本格的なムスリム対応においては、ムスリムである従業員やアドバイザー的な存在がカギとなるからである。
「餅は餅屋」。ムスリムのことはムスリムに教えてもらうことが欠かせない。

イスラム教の「断食」(ラマダン)については、ご存知の方も多いだろう。2014年は、6月28日から7月27日がラマダンである。この期間、ムスリムは日の出から日没まで食事をしない。
しかし、これにも様々な考え方があり、少量の水分摂取は構わないと考えている人もいれば、唾をのみ込むことさえしないという人もいる。筆者が訪れたあるイスラム教国の空港では、日没を待たずに食事を始めるムスリムがいた。

マレーシアのホテルでレストラン・マネージャを務めた知人(日本人)によれば、ラマダンの時期に困ったのは、日没の時間帯なのだそうである。というのも、日中なにも口にせずに過ごしたムスリム従業員たちの多くが、どれほど仕事が忙しくても、日没と同時に職場を離れて食事に出かけてしまうというのである。幸いそのレストランには中国人スタッフも働いていたため何とか事なきを得たそうであるが、ラマダンの期間にはマネージャ自身が走りまわってそのレストランを運営したそうだ。

この出来事をどう見るかは、ダイバーシティ(多様性)への認識が関係するだろう。
つまり、その認識が深く、イスラム教徒にとってのラマダン期間はそのようなものであると理解を示すのであれば、あらかじめ日没後の時間帯にはムスリムが職場を離れるものであると考えたうえで、いわゆるシフト組みを行うことができるし、マネージャ自身が他の仕事を行うことのできない時間帯であると予定することもできるだろう。

有識者へのインタビューによれば、国内のホテルやレストランにおいてムスリムへの対応を検討し実施するうえでポイントとなるのは、イスラム教徒の従業員を雇用することである。
当然のことながら、彼らはその文化に詳しく、何ができて何ができないか、どの時期や時間帯に何をすべきかについてよく知っている。ということは、彼らからの情報は、ダイバーシティ(多様性)対応において不可欠と言いうるのである。

しかしこれは容易なことではないだろう。そうすると次に行えることは、イスラム文化について詳しいアドバイザー的な団体や人からの情報を得ることである。
さらに、観光庁や各地方の観光局は、この点での情報を豊富に持っている。実際のところ、筆者が研究のためにいくつかの観光局に情報提供や資料送付を依頼したところ、すべての観光局が快諾してくれた。
政府として取り組んでいる訪日外国人客(インバウンド)誘致に関するさまざまな施策は、確実に動きをみせているのである。

これまで「宿泊産業に迫られるグローバル対応と必要なダイバーシティへの認識」というテーマのもと、ムスリム対応を例にとり検討してきた。
いったんここで結論的なことを指摘するとすれば、この点での最重要課題は、「情報」に集約されるだろう。
情報の開示、情報の収集は、宿泊産業をはじめすべての産業にとって不可欠といえるのである。

次回は当連載コラムの最終回として、これまでのコラムを勘案しつつ、訪日外国人客(インバウンド)誘致におけるMICEへの取り組みに焦点を当ててみたい。

(産業能率大学 情報マネジメント学部 准教授 吉岡 勉)