宿泊産業に迫られるグローバル対応と必要なダイバーシティへの認識 (1)

他国に進出しているかどうか、チェーン展開の有無などにかかわらず、ホテルや旅館では多種多様な顧客を有することになる。ある日とつぜん、ウォークイン(ホテル産業の用語で「予約なしの宿泊希望」)で外国人客が来訪することが、ないとは言いきれない。
宿泊産業では一般的に言われていることとは異なる視点で、グローバルを意識している必要がある。

日本国政府は、訪日外国人客(インバウンド)を増やそうと、2003年に「Visit Japan キャンペーン」、2010年にはインバウンド促進のためのキャッチフレーズとして「Japan Endless Discovery」と、 MICE (Meeting, Incentive, Convention, Exhibition の総称)に特化した「Japan MICE Year」といったキャンペーンを実施してきている。

そして2013年には初めて、1年間でのインバウンドが1,000万人を超えた。
政府としては、さらにインバウンド2,000万人を達成するとの目標のもと、諸施策を打っている。

つまりこれは、近い将来に、これまでをはるかに超えた数の外国人客が日本のホテルや旅館を利用することになることを意味する。
また、2020年の東京オリンピックでは数多くの外国人が日本を訪れるであろう。
日本のホテルや旅館がグローバル、またダイバーシティ(多様性)という視点を持ち、グローバルマネジメント、ダイバーシティマネジメントに向けた策を講じるのは、急務といえるのである。

ここで勘違いしてはならないことがある。
グローバルやダイバーシティという語から短絡的に連想し、語学力に着目するだけでよいというわけではない。
いまや、多くの言語でのコミュニケーションには、電子辞書やガイドブックなどで事が足りる。
もちろん語学力が高ければ、より深い意思疎通やホスピタリティの実現が可能となるのではあるが、それより大切なことは、ダイバーシティへの「認識」であろう。
多様性を受け入れるというよりも、自らの文化や風習とは異なる人が身近に(たとえば顧客として)存在するのはいわば「あたりまえ」であり、その事実を認識し、その認識に基づいたビジネスが必要
なのである。

次回、とくにこの点について、筆者(および筆者のゼミ生)の関心事より論じてみたい。

(産業能率大学 情報マネジメント学部 准教授 吉岡 勉)