グローバル対応教育における通信研修活用のポイント (第1回)

あるビジネスパーソン

まず、対照的な2人のビジネスパーソンについて見てみよう。
1人は、日系のグローバル企業で人事マネジャーを勤めるAさん。海外への短期留学経験や、本国あるいは地域内の海外法人との間で進められる共同プロジェクトへの参画経験を持つビジネスパーソン。高い語学力を持ちながらも、通勤時はスマートフォンを活用した英語学習に余念がない。
また、仕事の傍ら社会人大学院に通い、戦略論やファイナンスなど将来のステップアップに必要なテーマについて学習を深め、スキルの幅を広げている。これまで、グローバルで活躍するために必要な知識やスキルは何かという視点で自己啓発に励んできたという自負がある。

もう1人は、日系自動車部品メーカーのエンジニアBさん。系列の親会社の海外進出に伴う新工場移転の話を耳にした。工場が移転するとなると、エンジニアからも誰かが現地に行かざるを得ないのではないかと思っている。
これまで、グローバル化といっても人ごとだと考えていたBさん。旅行以外では海外に行ったことはなく、もし自分に出張や転勤の話が降りかかってきたらどうしたらいいのか、不安で仕方がない。とは言うものの、断れば将来の昇進昇格にも影響が出るだろう。来るその日に備えて、何をどう準備しようかと日々頭を悩ませている。

Aさんは、もともと海外経験があり、グローバルビジネスパーソンとして活躍するための準備を着々と進めて来たタイプである。
一方、Bさんは、近い将来予想される海外赴任への準備に重い腰を上げたタイプである。Aさんのようなビジネスパーソンは、既に外国人と一緒に仕事ができるレベルであり、グローバルを意識した教育支援よりは、海外の現場で経験を積ませるなど計画的なアサインメントの中で育成するのが得策であろう。

一方で、教育支援が求められるのは、Bさんのように、海外出張や海外赴任の可能性があるにもかかわらず、そのためのスキルや経験が備わっていないような人である。
グローバル化に備えておくことの重要性は認識しているが、何をどのように学べばよいかわからない人へのアドバイスや、グローバル化は自分には関係ないというビジネスパーソンの意識改革も望まれるところだ。

海外経験とモチベーション

支援のあり方を明らかにするために、ビジネスパーソンをもう少し体系的に捉えてみよう。ここでは、「経験レベル」「モチベーション」の2軸で考えてみたい。
具体的には、「海外での経験や知識が多いか少ないか」「グローバル対応について能動的か受動的か」のように分類する。後者は、グローバルに対して外向きか内向きかと言い換えてもよいだろう。
右上の象限は、海外留学や海外勤務経験など海外における経験や知識が豊富であり、将来グローバルで活躍したいという意識も高いタイプである。典型的には冒頭のAさんのようなビジネスパーソンである。
一方、左下の象限は、海外は旅行で訪れる程度であり、実際に海外で仕事をすることは想定していない、また、自分から率先して海外に出て行こうという意識も低いようなタイプである。典型的には冒頭のBさんのようなビジネスパーソンである。

ビジネスのグローバル化によって、海外の現場に限らず、日本国内においても、英語によるコミュニケーションが求められる、外国人が上司や同僚になる、といったグローバルなビジネス環境がめずらしくなくなってきた。
また、進出先も新興国を含めて多様化し、子会社を設立したり、生産や販売など事業の一部だけでなく、研究開発・設計、企画、マーケティングといった従来は日本国内に置かれていた機能まで海外に移転するケースも見られる。
こうした時代にあっては、グローバル人材の層をさらに厚くするために、海外に派遣する人だけでなく、その予備軍となる人材やグローバル化を支える日本国内のスタッフ全体の意識を高める必要があるだろう。

これからは、Bさんのようなビジネスパーソンに対して、グローバルで活躍するための動機づけや、いざというときに困らないような学習サポートができるかどうかが問われるのである。

次回は、最近の調査結果から読み取れる若手ビジネスパーソンのグローバル意識と通信研修が適用できるグローバル対応教育について述べる。



(産業能率大学 総合研究所 セルフラーニングシステム開発部 教材開発センター 教材開発担当課長
グローバルマネジメント研究所 所員 岡山 真司)