【事例紹介】『トヨタ消費⽣活アドバイザーの会』結成による消費⽣活アドバイザー制度への取り組み事例

はじめに

消費⽣活アドバイザー制度は、1980年、通商産業省(現:経済産業省)の告⽰に基づいて発⾜しました。
その目的は、消費者と企業の架け橋となりうる⼈材を養成することであり、各企業においても消費者の意向を経営に活かすべく、きわめて重要な資格として注目されています。

今回はトヨタ⾃動⾞株式会社 お客様関連部 丸⽥美恵様に、アドバイザー制度への取り組みについて、お話をうかがいました。

  • 本編は2013年2⽉13⽇の学校法⼈産業能率⼤学主催「経営に活かす!『消費⽣活アドバイザー制度』の取り組み〜先進企業による事例紹介と通信講座の活⽤〜」フォーラムにてご講演いただいた内容を編集したものです。

通商産業省(現:経済産業省)の要請により消費⽣活アドバイザー制度への取り組みを開始

まず当社が消費⽣活アドバイザー制度へどのように取り組んできたか、その歴史について簡単にお話させていただきます。

消費⽣活アドバイザー制度が発⾜した1980年、通商産業省(現:経済産業省)から案内をいただき、関係部署(広報部や法規部など)の部⻑が受験を指⽰する形で15名が受験し、7名が合格しました。この7名が当社における第⼀期消費⽣活アドバイザーです。

1989年に社⻑を委員⻑とするCS向上委員会が設置されました。CS意識の浸透にも効果があるとの考えから、全部署に受験案内をするようになりました。
1991年には『トヨタ消費⽣活アドバイザーの会』(以下『会』)を結成しました。
1999年には会社の消費者志向に努めたことが⾼く評価され、『会』事務局が第1回消費者志向個⼈活動功労者で経済産業⼤⾂表彰を受賞しました。
2005年には制度創設25周年にあたり、資格制度の普及に積極的に取り組んだことが評価され、会社が経済産業⼤⾂表彰を受賞しました。

その翌年、『会』の会報誌『ル・ポン』を創設しました。
誌名のル・ポンとはフランス語で橋を意味する⾔葉で、『会』が企業と消費者をつなぐよき架け橋となるようにとの意味が込められています。

『会』の受験⽀援により有資格者が⾶躍的に向上

『会』では、活躍できる⼈材の育成を目的に消費⽣活アドバイザー資格取得を目指す社員を対象とした受験⽀援を⾏っています。

具体的にはイントラネットを通じて、受験をするにあたっての⼼構えや参考になる消費者関連情報、合格者の論⽂、受験体験など、受験に際した有⽤な情報を発信しています。また参考図書の貸し出し、希望者の論⽂添削と模擬⾯接なども⾏っています。

当社の試験合格者数は、2011年度までの累計で307名となりました。転籍や退職者を差し引き、現在200名強の消費⽣活アドバイザーが在籍しています。
上記のグラフによると2002年~2004年あたりだけ突出して合格者数が多いのですが、この年は資格取得者数を増やすことに⼒を⼊れた年でした。イントラネットでの受験案内のほか、各部の部⻑へ受験者の推薦依頼、各部に在籍する消費⽣活アドバイザーに受験を呼びかけてもらうなどして受験者数を増やし、60~70名程が受験しました。なお現在は、例年30名程度が試験を受けています。

部門別に⾒ると、技術・製造部門に資格者が多く、それが当社の特徴となっています。
合格者を対象とした社内アンケートによると、技術・製造部門は⽇常の業務で直接お客様と接することがほとんどないからこそ、「お客様の視点を忘れずにいたい」という思いが動機となっているようです。
消費⽣活アドバイザー制度への取り組みですが、関係部署への働きかけ、『会』結成、さらには経済産業⼤⾂表彰の受賞などを経て、消費者視点を⼤切にするという思いは着実に社員の間に根づき、この資格に積極的にチャレンジしようという姿勢がうかがえるようになりました。

2011年度活動内容

会員の⾃発的な参加が主体となる『会』の取り組み

4⽉の総会では、前年度の活動報告と今年度の活動計画、また新たに消費⽣活アドバイザー資格に合格した新⼈の紹介を⾏っています。
2011年度は『会』ができて20年目という節目の年であったため、『会』の名誉顧問である佐々⽊副社⻑(当時)による「トヨタを取り巻く状況と取り組み~会員に期待すること~」をテーマとした講話と、⽇本⼥⼦⼤学の細川教授による「消費者庁時代の企業の社会的責任を考える」をテーマにした講演を実施しました。

10⽉に⾏われた『オールトヨタビッグホリデイ』は、グループ各社の交流や社内活性化、また地域との交流を目的に、愛知県豊⽥市のスポーツセンターで毎年秋に開催されているイベントです。
『会』では消費者啓発を目的に、グループ各社の消費⽣活アドバイザーとともに出展しており、同年度は社会問題にもなっていた「貴⾦属の買い取りに関する事例紹介」「電⼒消費を抑えたエコ⽣活の提案」や「リーフレットの配布」、そのほか環境に配慮した暮らし⽅の提案として「ふろしき実演(買い物バッグの作り⽅等)コーナー」などを出展して、来場者(従業員、地域の皆様他)に、より意識の⾼い消費者となっていただくお⼿伝いをしました。

また、12⽉には当社の体験型ショールームである『メガウェブ』(東京都江東区)の施設評価を実施しました。この活動は、トヨタ関連施設をお客様の視点で視察し、気づきや改善点を担当者に伝えることで、よりよい運営に役⽴てていただくという目的で、2001年度から⾏っているものです。

2012年度活動内容

『会』の認知および各部門の啓発にも通じるお客様視点での業務チェックを実施

4⽉に⾼卒新⼊社員向けに消費者教育・啓発を実施しました。
新⼊社員が在籍している14の⼯場に消費⽣活アドバイザーが出向き、若者に多い借⾦、ネット通販、ワンクリック詐欺など、昨今の消費者問題についての講義を⾏いました。なお、この講義で使うテキストは『会』にて制作しています。

また5⽉には、品質保証部が実施している⾞両の安全評価に参画しました。
目的はお客様視点に⽴ちながら発売前の⾞に触れ、操作する場所や触る物で怪我につながる恐れがないか確認することです。会員からは34件の指摘が挙がり、実際に改善にもつながっています。
参加した会員からは「お客様目線で発売前の⾞両を評価することは安全・安⼼を考えた『よきものづくり』に通じると感じた」「プロがどんな基準、観点で商品の安全性を評価しているか聞くことができて勉強になった」などの声が挙がっています。またお客様目線を意識することで消費⽣活アドバイザーとしての資質向上にもつながる活動となっています。

12⽉に実施したミステリーコールは、お客様に成り代わった会員がお客様相談センターに電話をかけて、その応対についてチェックするというもので、2007年度から⾏っています。
当年度は11名の会員がミステリーコールに参加しました。その後、会員とお客様相談センターの関係者による意⾒交換会を実施しました。なお、お客様相談センターからは「お客様視点での⽣の声が聞けて、今後の応対を考えていく上で参考になった」との意⾒をもらっています。

今後の課題

⾃主活動のさらなる推進を通じて会社への貢献度アップと『会』の活動意義の浸透を目指す

『会』の今後の課題としては、まず目指すべき姿として「会社への貢献度を⾼める」「『会』の存在と活動の意義を誰もが知っている」という2つの目標を掲げています。
また目標達成のための課題として「継続的な社内認知度向上策推進」「⼀年⼀⼈⼀活動で会社に貢献」「事務局主導から⾃主活動へ」の3項目を挙げています。

現在の『会』の活動は⾃主的な参加が主体ですが、その数はようやく5割といったところです。
より多くの会員に参加してもらうためには、『会』の活動に取り組むことで達成感が感じられる、また⼀⼈⼀⼈が⾃分の職場の中で、お客様目線をもって業務に取り組むきっかけにしてほしいと考えています。
まずは⼀つひとつの取り組みを着実に、実りあるものとして⾏っていきたいと考えています。

(2013年2⽉13⽇公開、所属・肩書きは公開当時)