【SANNOエグゼクティブマガジン】本当に従業員が満足する経営をしていますか?~最近の傾向・ご支援から見えること

はじめに

筆者は、新卒一年目で外食産業の店長を経験して以来、その後も長年サービス業に関わってきました。そのサービス業ですが、2010年国勢調査において全産業人口5,961万人のうち2,561万人と実に43.0% を占めているにも関わらず、実態は処遇を含めた労働環境は旧態前のままです。

そのためか、サービス業は、産業としては認められながらも、絶えず人の流入出が繰り返され、人材の空洞化が叫ばれる産業です。外食産業においては、店長の残業手当 が司法判断により、表面的には「名ばかり店長」の問題が解決したように思われていますが、特に労務面における根本的な問題が解決されないことには、人材の定着は図れません。

サービス業における労務面の懸案事項

  • 採用後の教育体系、キャリアパスが整備されていない。
  • 役職はあるが、昇格基準が不明確である。
  • 従業員のやる気のでる評価基準、仕組みの構築については、早急な対応が必要である。
  • 従業員の問題意識を醸成するようなミーティングの工夫やマネジメントの推進が必要である。
サービス業の場合、入社時から一人前になるまでは研修を実施しますが、それ以降、事情はあるにせよ責任者になるまで教育を実施しないケースが見受けられます。しかし、自分の立ち位置を知るためにも、新入社員(中途入社を含めた)~中間職~管理職までのキャリアに応じた教育体系の構築は必須です。それがないため、顧客サービスへと目を輝かせていた新入社員は、いつしか「なんのために働いているのか」「このままこの会社にいても使い捨てではないか」と思うようになり、毎日ただ作業を繰り返すだけになってしまいます。

次に、サービス業の大きな問題点として、キャリアパスが示されていないことがあります。これは、現場からの意見でも、「何年で現在のポストを経験し、どの道筋があるのか不明」「昇給、昇格の基準がない」「“ポジションが空いたら昇進”というケースが多く、場当たり的な印象がある」など厳しい意見が寄せられています。

それを解消するには、まずは従業員に対して明快なキャリアパスを提示することが必須です。たとえば、ある外食企業では、「管理職、経営層を目指すマネジメント層」と「サービス技能のスペシャリストを目指すエキスパート層(ホールのサービス、調理など)」等のコースを明示し、社員自ら自分のキャリアデザインと合致したコースを選択し、それに伴った教育を実施しています。経営者の皆様にお願いしたいのは、人生を預けてきた仲間に対し、彼らが満足するようなキャリアパスを明示することが、大切な「人の定着」に繋がることを認識いただきたいということです。

次に、従業員がヤル気の出る人事制度・仕組みの構築を急務とし、これを整備して人が育つ職場、よい人材が集まる職場づくりを目指します。サービス業の場合、売上や利益等、目に見える定量目標だけに 片寄りがちです。それは根底としては大事ですが、部下の育成、教育の実施、自己啓発等の定性目標を設定し、誰でも達成しやすい基準、「ナニヲ(指標)、ドコマデ(水準)、イツマデニ(期限)」を示すことが必須です。

また、期中・期末には必ず「期待の話し合い」が必要です。サービス業の店長、マネジャーは一般的に指示をするのは得意ですが、会社や上司からの期待を伝えるのが苦手です。ここでは、一方的に評価を伝えるのでなく、ドコが出来、ドコが出来ていないかを伝え、お互いに来期への期待を確認します。

最後に、ミーティングは実施しているが、内容が形骸化しているという問題も上げられます。その要因を分析すると、
  • そもそもミーティングを行う目的が不明確で、従業員にきちんと伝わっていない。
  • 情報の伝達が一方通行である。
  • 否定・批判・叱責に終始してしまう。
が挙げられます。
これらを避けるために以下の内容を提案いたします。
①成功・失敗事案の共有
日々の成功体験・失敗体験を従業員全員で共有することは、実践的な教育として有効です。

②スピーチ
従業員の主体性・積極性・情報感度の向上のために、顧客満足への目標、アンケート結果に対する方策等について輪番制でスピーチを行い、自律性を高めます。

③経営理念・ビジョンの共有
ミーティングの場で、経営理念の唱和をよく見かけます。しかし、声の大小や正確に唱和することに目がいき、その意義についてはあまり共有出来ていません。 ある居酒屋チェーンでは、経営者が実際に理念の意味、将来のビジョンを現場で説明、共有し、お互いに将来の目指すべき方向性、夢について語りあっています。これが従業員のやる気に直結しています。
これらの成功企業として、「ネッツトヨタ南国」(高知市本社 代表取締役社長前田穣氏)をご紹介します。日本全国のトヨタ販売会社295社の中で、「お客様満足度」ナンバーワンを連続達成している同社では、上記の①、②を実施しておられます。

同社の経営の目的は「社員の幸せ」。社員が仕事に満足してない会社は存在価値がないと言い切る同社長は、創業以来一貫して社員満足を経営の根幹に置いてき ました。そのためには、上司の命令で動くのではなく、社員一人ひとりが自ら考え行動する自主自立型組織を目指しています。

例えば、ネッツトヨタ南国では、部署横断的に委員会が実施され、その成果の一例として「土曜/日曜は朝8時から朝食サービス」というカーディーラーとして はユニークなサービスを展開しています。朝食を召し上がっていただきながら、オイル交換や、パーツ交換などもご用命いただき、あとは当店でごゆっくりとお くつろぎいただくという具合です。

こういったサービスアイデアは、社長をはじめとする上層部の施策によるものではありません。現場に立ち会う社員一人ひとりが、常にお客の立場で考えて行動し、ミーティングを通して意見交換を行い、自発的に提案して形作ってきたものです。
サービス業における最も重要な使命は顧客満足です。しかし、実行指揮する幹部社員、現場の従業員に至るまで、その必要性を心から認識しなければ実現できません。なによりも従業員がその会社で働くことに満足し、生き甲斐を感じなくては、顧客に満足していただこうと向き合うことは不可能です。

経営者の皆様には、従業員に対する真摯な態度と仕組み構築への本気度が問われています。