【SANNOエグゼクティブマガジン】「文化だから...」を言い訳にしていませんか?~最近の傾向・ご支援から見えること


原 義忠



学校法人産業能率大学 総合研究所 経営管理研究所 主任研究員

※主に、人事制度設計および導入支援コンサルティングを実施。
※所属・肩書きは掲載当時のものです。

変革へ向けた人材マネジメントの問い直し

「この人事制度は『当社の文化』と合わずにうまくいかなかった…」
経営幹部の方からお話をお伺いすると、こういった話をよく聞きます。人事制度は文化との適合性が重要であるということは感覚的には理解できます。しかし、「失敗」の原因は本当に「自社の文化に合わなかった」という認識のみでよいのでしょうか。組織心理学の大家であるE.H.シャインは、文化を、「われわれ個々人および集団としての行動、認識方法、思考パターン、価値観を決定する強力ではあるが潜在的でしばしば意識されることのない一連の力である」(E.H.シャイン著 『企業文化』 白桃書房)と定義しています。そもそも文化は「潜在的で意識されることのない」ものであり、軽はずみに「文化に合わない」と言えるほど単純に把握できるものではないはずです。

ただし、この得体の知れない文化(社風と表現してもよいかもしれません)について、唯一の方法はないとしても、その組織に根付いている文化を理解するためのヒントは、組織の中や現行の人事制度の中に数多く存在しています。例えば、明らかに管理職の数が多すぎる組織があったとします。そこで、年功要素のみに偏重した処遇システムが定着しているとすると、「変革志向の文化」は育まれにくいでしょう。しかし、一方では、そのような組織では、組織に対するコミットメントの高さによって、じっくりと地域に根ざし、愚直に職務を遂行することにより組織貢献ができる人材が育っているのかもしれません。

この「文化を的確に理解すること」がまずは大切なことです。そして、「文化を的確に理解することで初めて、人材マネジメントの第一歩」を踏み出すことができます。

併せて、人材マネジメントを定着させるためには、経営幹部の方々が、「要するにわれわれの組織にとっては、どのような人材が必要なのか」、という極めて根本的な問いに対する明確な答えを持っていることが最も重要となってきます。

求める人材像はそれぞれの組織ごとに異なります。組織規模、事業ドメイン、ビジネスモデル、業績、業界内でのポジション、賃金競争力といった、さまざまな要素や情報を複合的に分析することにより、自組織の人材に期待する能力、態度・意識、考え方といったものが見えてきます。

なお、先ほども文化について触れましたが、何かを変えようとするとき、「考慮する」ことと「迎合する」ことは異なりますので、実態を伴わない文化論や人事のトレンドに引きずられずに、自社の文化を的確に押さえたうえで、組織と従業員が納得する人事制度を定着することが必要です。

したがって、人事制度の中核として、「『文化』を的確に把握すること」、そして、「文化を踏まえた『求める人材像』を明確にすること」が必要となるのです。

すべての人材マネジメント施策は組織の人材マネジメント方針を従業員に向けて発信する「メッセージ」です。
皆様の組織では、「文化」をスケープゴートにして、あいまいで説明力の低い人材マネジメントが常態化していませんか。