【事例紹介】リゾートトラスト株式会社 学ぶ風⼟を醸成する通信教育の効果的活⽤法

はじめに

上司が部下の学びを⽀援する風⼟を醸成したい企業にとって、「何をすればよいのか」が課題なのではないでしょうか。

そして、リゾートトラスト株式会社 ⼈事部主事の伊勢⼀隆様より、通信教育を昇格要件および福利厚⽣の⼀環とすることを通じて、学ぶ風⼟をどのように醸成されているかについてお話を伺いました。
リゾートトラスト株式会社 ⼈事部⼈事課 伊勢 ⼀隆 様
  • 本編は2011年11⽉22⽇の学校法⼈産業能率⼤学主催「昇進・昇格制度と連動した通信研修の活⽤」フォーラムにてご講演いただいた内容を編集したものです。

会員制リゾートクラブの経営をコアビジネスとした事業展開

当社の社名は、直訳すると“余暇信託”です。
余暇をお客様の財産と位置付けて、⼤切に守って運⽤していくという思いがこの社名に込められています。

創業は1973年、正社員数は3,506名、事業内容としては会員権事業、会員制リゾートホテル事業、メディカル事業、ゴルフ事業、ホテル・レストラン事業を展開しており、その業務内容は多岐にわたっています。

リゾートトラストにおける通信教育の位置付け

当社における通信教育の位置付けを「⾃⼰啓発」と「⼈事制度との連動」のどちらかでいうなら⾃⼰啓発のほうですが、正確には⼈事制度と連動する側⾯を持つ⾃⼰啓発といえます。

昇格試験として実施するアセスメント研修へのエントリー条件として、社が指定する講座を1つ以上履修することを義務付けています。ただし、“担当業務と直接関係する講座でなくても可”というルールも設けています。当社の業務内容が多様で、さまざまな職種の社員がいるためです。

⼀つでも該当講座を修了していれば昇格試験へのエントリー条件を満たすことになりますが、私は「誰でも⼀度は通信教育に触れる仕組み」程度でよいと考えています。

特に昇格を目指すタイミングで通信教育を必ず経験してもらっているのは、⾃分が上司になったとき、通信教育をツールにして部下と関わってもらうためにも、まず体験してもらうことが重要と考えているからです。

講座数を多く⽤意することで“やらされ感”を排除

当社では140の通信講座を⽤意しています。
企業様によっては「140講座は多いのでは」と思われるかもしれません。事実、私も上司にそのように⾔われます。ですが、講座を絞って「これがいいからこれをやりなさい!」というのでは、どうしても社員の間に“やらされ感”が出ると思うのです。
また、⾃分で選ぶというところに楽しみを感じたり⾃⼰決定感を⾒いだす⽅もいるでしょうから、カテゴリーの中でも幅を持たせて設けています。

例えばマネジメントのコースは、10講座程度⽤意しています。すべての講座が満遍なく受講されているとも限りませんが、9割強の講座では必ず⼀⼈以上は受講者がいる状況です。

福利厚⽣を能⼒開発に活⽤する仕組みづくり

当社では「ポイントくん」と称したカフェテリア⽅式の福利厚⽣を導⼊しており、社員⼀⼈あたり4万8,000ポイントを付与しています。
当初は、⾐⾷補助の⼿厚いホテル勤務と、そういった補助のない本社勤務との福利厚⽣の差をカバーするものでしたが、今は会社が⽤意するメニューも増え、⼈間ドック費⽤からインフルエンザ注射代への充当、⾃社株購⼊も可能です。そのポイントで通信教育も受けられるシステムとなっています。

具体的には、修了者に対して通信講座費の50%を会社が補助していますが、2万円の講座を受講した場合、修了時に会社から1万円が返却され、残りの1万円をポイントで⽀払えば、実質的には全額無料での受講が可能です。

リゾートトラストにおける講座受講実績

2011年6⽉開講講座の申込者は579名でした。これは全社員3,506名の約17%にあたります。修了率はおおむね50%です。
通信講座制度を導⼊して約8年経ち、今後は受講率をいかに⾼めていくかが課題となっています。
その取り組みの⼀つとして、通信講座案内⽤ガイドブックの内容充実を図っています。

通信教育講座ガイドブックの構成

“何かやってみたい”と思わせるあいさつ⽂

通信教育講座案内のガイドブックは多くの企業様で作られていると思います。その巻頭にはトップメッセージが掲載されているケースも多いでしょう。
当社でもメッセージを掲載していますが、実は⼈事部(私)が書いています。執筆にあたり留意しているのが、ガイドブックを⼿に取った社員に“何かやってみたいな”と思わせること。

例えば、「セレンディピティのすすめ」をガイドブックのテーマとしたときは、ボクシングのビジュアルを⽤いながら、「“ラッキーパンチ”という⾔葉があるが、それはラッキーだけでなく、⽇頃の鍛錬の成果であるパンチ⼒があってこそであり、ラッキーパンチを起こすためにも⽇頃の鍛錬、すなわち通信教育の受講をがんばりましょう」というメッセージを送りました。

上司向けメッセージの掲載

通信教育の受講は、ある意味孤独なプロセスです。
ですからせめて上司の⽅々には、⾃分の部下がどんな講座に取り組んでいて、どんな⾃⼰啓発をしようとしているのかを知っていてほしいという願いを込めて、上司への意識付けのためのページを設けています。

講座申込者の中には、申し込んだだけで⼀度もテキストを開けず終わってしまう⽅や、途中でやめてしまう⽅もいます。そういう⽅々には、上司の励ましの⾔葉がモチベーションキープの良いきっかけになるのではないかと考えています。

受講者インタビューの掲載

毎年、実際に通信講座を修了した6名に、コースの紹介やどんな感じで進めたかなどを700字程度にまとめてもらった受講体験談を掲載しています。

依頼すると、初めは「えーっ!?」といった反応なのですが、最終的には「この企画に参加させてもらえてよかった」と⾔ってもらえることがほとんどです。本⼈たちのモチベーションにもつながっているようで、なかなか良い企画のように感じています。

通信教育コース体系図の掲載

先にも述べましたが、当社では昇格試験にエントリーする条件として、指定した講座群から1つ以上の講座の受講を義務付けています。
J(ジュニア)職、S(シニア)職、M(マネジャー)職のいずれの⽅々にも、⾃分の職能資格と照らし合わせた場合、どの講座がおすすめかひと目でわかる体系図を掲載しています。初めは職種別に作ってみたのですが、意外と全職種共通のものがほとんどを占めました。

なお、140講座は年2回の募集・開講のタイミングで、その都度選定しています。

資格試験情報の掲載

当社が⽤意する140講座の中には、さまざまな資格試験対策のための講座も数多くあります。
そうした講座を修了した⽅々向けに、関連する試験情報を掲載しています。

仕組みの確⽴と受講率アップのための取り組み

通信教育の最初の導⼊時に最も苦労したのは、やはり仕組みづくりでした。
パンフレットの⼯夫に加え、当社ではまず費⽤のやりとりを簡略化しました。

例えば、12⽉開講ならば12⽉の給与から⼀⻫に引き落とし、修了した段階で半額戻す仕組みにしました。
そのほか、次のようなことに取り組んでまいりました。

申し込み⼿続きの簡略化

私が通信教育を担当する以前、申し込みの際に本⼈の印鑑のほか、上⻑、さらには所属⻑の押印も必要でした。
しかしながら、ホテルなど無休営業している部門だと休みがバラバラなうえ、責任者ほど出張が多いため、ハンコを集めるのに1週間かかるケースも珍しくありません。そうしている間に気持ちが萎えることのないよう、上⻑の押印を廃⽌しました。
⼀⽅で、ガイドブック内にある上⻑向けのページが形骸化しないよう、申し込み後に“あなたの部下はこのコースを受けています”という社内メールを配信することとしました。

管理職向けの⼿引書を配布

さらに、産業能率⼤学からご提供いただいた『メンバーと共に』という冊⼦を管理職に就くすべての社員に配りました。この冊⼦は、部下が通信教育に取り組むにあたっての上司としての⽀え⽅などを記した⼿引書になっています。
現状では講座申込者数が急増といった直接的な効果は表れていませんが、「うちの部下の○○のコースの受講進捗はどうですか?」といった上司からの問い合わせは確実に増えました。部下の学習状況を⾒ていく風⼟が醸成されつつあると感じています。

講座開講⽉の変更

それまで5⽉と11⽉だった講座開講⽉を6⽉と12⽉に変更しました。
5⽉と11⽉に講座がスタートする場合、応募は1ヵ⽉前の4⽉と10⽉になるのですが、その時期は新⼊社員研修の時期と重なります。何かとせわしない年度初めより、新⼊社員がそれぞれの配属先で落ち着いたところで既存社員と⼀緒に申し込みを検討できるほうが良いと思い、変更しました。

また開講⽉の変更を実施した年には「春の新⼊社員祭り」として、新⼊社員向けの講座を⽤意し、“費⽤は修了を条件に100%会社が負担します”と告知したところ、それまで2~3名だった新⼊社員の申し込みが⼀気に30名近くまで増えました。

社会情勢を踏まえたトレンド講座の選定

講座の内容は毎回⾒直しをします。
その時々の社会情勢を⾒ながら、ニーズに合いそうなものを⼊れるようにしています。

なお、最近感じているのが中国語への関⼼の⾼さです。これまでも、レストラン事業を展開していることからフランス語やイタリア語の講座を⼊れていましたが、⼈が集まるのは英語ばかりでした。そんな中で試しに⼊れた中国語講座が思わぬ反響を呼びました。おそらくは中国からのお客様が増えているためだと思います。

今後の課題

受講者の内訳を⾒ると、リピートする⽅の割合が非常に⾼いです。
何回も受講を重ねる⽅と、まったくやらない⽅とに⼆極化している状態にあります。今後は、後者にどう興味を持ってもらい、学ぶ風⼟を醸成していくかが課題かと考えています。

(2011年11⽉22⽇公開、所属・肩書きは公開当時)