【事例紹介】サトー流 自己啓発を促進するための学ぶ組織づくり

はじめに

通信研修という教育⼿段は、個⼈の能⼒開発という観点で多くの企業様で活⽤されていますが、最近「学び成⻑する組織づくり」という観点から、その活⽤が⾒直されています。
そこで今回は、株式会社サトー経営企画本部⼈財部採⽤・育成グループの清⽔孝洋様に、⾃⼰啓発を促進するための取り組み事例についてお話を伺いました。
株式会社サトー 経営企画本部
⼈財戦略室
採⽤・育成グループ
清⽔ 孝洋 ⽒

※本編は2010年11⽉30⽇学校法⼈産業能率⼤学主催「事例から学ぶ効果的な⼈材育成と通信研修の活⽤」にて講演いただいた内容を編集したものです。


サトーの強みは「⼈財」である

当社では、⼈が⽣み出す付加価値をサトービジネスの源泉と考え、社員を「⼈財」と呼んでいます。

「私たちは、当社の事業において付加価値を⽣み出す源泉は⼈であることを認識し、<社員が財産>という視点に⽴つ」という考えです。

これは「⼈間性の尊重と多様性の受容を基本として、⼈財の確保、配置、育成、評価、処遇などの⼈事諸制度を進めます」という⼈事基本⽅針に基づくもので、⼈財育成についてもそこをテーマに進めています。

社内教育制度も本当に幅広い体系となっており、さまざまな角度から⼈財の育成にあたっています。
今回、お話しする通信教育についても、まさにその⼀環であり、その位置づけはグローバル化対応および⾃⼰啓発の⼀つということになっています。

サトーにおける通信教育制度の概要

まずは通信教育制度の概要についてご紹介します。 実施は毎年9⽉から翌年8⽉までの1年間を⼀つの単位としており、社員は専⽤のウェブサイトで申し込みを⾏います。申し込みは毎⽉15⽇を締め切りとして翌⽉1⽇から開講となります。⽀払い⽅法に関しては⼀括もしくは分割で毎⽉給与から控除対象として天引きされます。講座については毎年⼊れ替えを⾏い、会社選定の296コースの中から選択するようになっています。

講座の種類は⼤きくAからCの3つのカテゴリーに分かれます。なお、A、B、Cコースの中から、別途本部⻑が厳選した23コースを「本部⻑推薦コース」として指定しています。

Aコース(会社推薦コース)

汎⽤的に使われるオフィス系のOAスキルならびに語学系を含む101コースがこれにあたります。
当社では特に語学教育に⼒を⼊れており、TOEICの受講補助や英会話スクールの通学補助など、レベルに合わせたさまざまなコースを⽤意しています。

Bコース(本部・部門推薦コース)

各部門やディビジョンごとに所属社員のスキル向上を目的に選定します。 営業系部門であればお客様の⼼をつかむ商談テクニックなど、また開発系部門であれば電気通信技術や機構設計など、専門分野を中⼼とした118コースがこれにあたります。

Cコース(⾃由選択コース)

趣味を含む50コースがこれにあたります。 当社では直接業務にかかわりのない講座も通信教育のコースに盛り込んでおり、最近ではアロマテラピーに関する資格取得講座などが⼈気になっています。

受講料補助制度について

受講料の補助率はコースごとに変わってきますが、その前提としてコースの修了が必須の条件となります。

通信教育による⾃⼰啓発促進のための施策

講座の選択

社内ニーズと受講者数をもとに、年度単位で講座の⼊れ替えを⾏っています。

ただ単に受講者数が多いコースを残すわけではなく、過去3年の受講者数データから、⼈気のコースについてステップアップ⽤のコースを⽤意するなど、社員側に「今までと何かが変わるんじゃないか?」といったワクワク感を提供するよう⼼がけています。それにより、通信教育⾃体への興味喚起につなげています。

グループ受講制度の導⼊

当社では、通信教育制度の運⽤施策として「グループ受講制度」を導⼊しています。

これは、3名以上のグループで受講し、その全員が修了した場合、受講料補助と併せて「図書カード」を全員に⽀給するというものです。申し込みは毎年5⽉と11⽉の年2回。申し込むコースは同一のものでも全員がバラバラでも可能で、3名の場合は各1,000円分、4名の場合は各2,000円分、5名以上の場合は各3,000円分の図書カードが⽀給されます。

制度導⼊の目的としては、これらが挙げられます。
「お互い声を掛け合って、職場全体で受講しやすい雰囲気を作り出す」
「メンバー間相互の刺激により、学習効果が継続し修了率が向上する」
「グループで学習することにより、学習の習慣が職場全体で定着していく」


グループ受講の実績としては、同じ⽀店、⽀社、営業所などの仲間同⼠で「図書カードが欲しいから⼀緒に受けよう」というケースが多いようですが、中には新卒採⽤の研修で知り合った者同⼠が勤務地を越えて申し込むなど、普段の業務ではなかなか顔を合わせることのない全国各地の社員が
コミュニケーション⼿段として活⽤しているケースもあります。
また上司が部下に対して「俺も⼀緒に受けるから、お前もやろう」というように受講を勧める⼝実として活⽤しているケースも⾒受けられます。

グループ受講制度の有⽤性は年度別受講状況にも表れています。
例えば2009年度は、通信教育の対象者1,818名に対して、受講者1,154名で修了率80.1%ですが、グループ受講者に絞って集計してみると、その修了率は86.1%まで跳ね上がります。


専⽤サイトの活⽤

当社では2009年より通信教育ウェブサイトを⽴ち上げ、申し込みのオンライン化を進めています。

申し込みデータは講座ごとに産業能率⼤学さんをはじめ、当社が契約する15の教育団体のサーバーに送られることで、各団体から直接受講者に教材を発送してもらっています。
また、このデータベースは私たちのデータ管理にも活⽤され、例えば受講料の天引きや給付の管理、グループ受講の図書券の給付、各団体からの請求書管理などに⽣かされています。

さらに2010年からの試みとして、オンラインシステムを活⽤した受講期限の告知を⾏っています。
具体的には受講期限が半分を過ぎた社員に対し「半分過ぎて修了していないみたいですけれど、どうですか」といったリマインドメールを送付したり、受講期間が1カ⽉を切った社員に「最後ですけれど、どうですか」というメールを送っています。

社内の情報発信ツールを活⽤したPR活動

当社が2009年度からウェブサイトを導⼊したことは先にお話ししましたが、当初は申し込みをウェブに⼀本化することで受講者数が減るのではないかという懸念がありました。

結果として、2008年度受講者数708名に対し2009年度は1,154名と増えましたが、これはウェブ化による増加ではなく、積極的なPR活動の成果であると私たちはとらえています。

ウェブサイト導⼊以前、通信教育の告知には専⽤のパンフレットが活⽤されていました。 しかし実情を調査したところ、担当者が頑張って作っていたにもかかわらず、年度末の⼤掃除のときに捨てられてしまうなど、有効活⽤されていないケースが非常に多いことがわかりました。

そこでパンフレットのボリュームを⼤幅に減らしたうえで、広報誌やポータルサイト(イントラネット)によるPRに取り組みました。特にポータルサイトについては、毎週⾦曜⽇に⾏われる経営会議の内容開⽰に使われていることもあり、全社員が周知事項を確認するために必ず目を通しているという下地があり、告知媒体として最適でした。

また当社では映像による社内報を不定期で配信しています。従来は展⽰会の様⼦などを各⽀店・⽀社・⽀営業所に配信するためのツールですが、これを活⽤したPRも⾏いました。
内容は家庭⽤デジタルビデオカメラを使い⾃社内で作った映像です。撮影にかかった時間も1時間くらいで、よい意味でのおふざけ映像になっています。クオリティは決して⾼くはないですが、こういったもので社内へのPRを⾏いました。

もう⼀つ直接的なPR活動ではありませんが、ブラックボックスになりがちな受講状況をさりげなく開⽰する⼿段として、修了証を効果的に活⽤しています。 運⽤法としては修了証をいったん⼈財部で取りまとめ、それを受講者が所属する部門⻑に「朝礼などの場で受講者に渡してください」というお願いを添えて送っています。

当社では執⾏役員やライン⻑などが率先して通信教育を受講するケースが多く、そのことを⾃然なカタチで知らせることで若⼿や中堅社員などの「部⻑もやっているなら⾃分もやらなきゃ」というという思いを煽るきっかけにしています。

eラーニングシステム「Manabu」との連動

社内教育ツールとして、2008年度から通信教育とは別に「Manabu」というeラーニングシステムを導⼊しています。
このシステムは、教材作成・公開から受講履歴管理まで、すべてを内製化できるというもので、⾃⼰啓発の社内促進に役⽴てています。このシステムができてから社内でも⾃ら学ぶという⾏為が習慣化しており、通信教育浸透の⼤きな要因になったものと思われます。

もう⼀つ「Manabu」には⼤きな特徴があります。それは通信教育の補完的な役割です。
通信教育が広く⼀般的な知識やスキルの習得の機会であるのに対し、「Manabu」はサトーの事業に即した知識・スキルを主にしています。
私たち⼈財部では通信教育受講者にアンケートを取っているのですが、その中で「学んだ内容はしっかり理解したけれど、実務に活かしきれない」といった声をよく聞きます。 実はこれ、当社で標語のように使われる「サトーの常識、世間の非常識」という⾔葉を顕著に表しているわけです。「⼀般的にはそうかもしれないけれど、ウチではね…」といった独⾃のルールや慣習はどこの会社にもあるはず。そういった溝を埋めるツールとして当社では「Manabu」を活⽤し ています。

まとめ 〜通信教育におけるPR活動の重要性〜

最後にまとめとして、⼈財育成に携わってきた⽴場から思うところをお話しいたします。
通信教育などの⾃⼰啓発⽀援は、それ単体では完結できないものであり、また、させてはいけないものだと感じています。
まずは教育制度全体の中で通信教育が担う役割や目的を明確化し、そのうえでできる限り情報を広く告知していく。
通信教育をはじめとした各種教育制度のPRこそが、受講者数および効果・効率の向上に⼤切なのだと実感しています。

(2010年11⽉30⽇公開、所属・肩書きは公開当時)