【事例紹介】ピジョングループにおける次世代リーダー育成 〜ダイバシティ時代の ⼥性管理者の育て⽅〜

はじめに

企業を取り巻く環境が⼤きく変化する中で、真の意味での“組織強化”は、各企業にとって避けては通れない⼤きな課題となっています。 そこで今回は、性別や年齢、雇⽤形態に関わりなく、すべての従業員が、その能⼒を⼗分に発揮できる組織づくりに取り組むピジョングループにあって、⾃らも次世代経営⼈材輩出プログラムに参加した経験を持つピジョンハーツ株式会社取締役の町屋佳⼦様に、⼥性を含む次世代リーダー育成の取り組みに参加した経験についてお話をうかがいました。

※本編は2010年3⽉3⽇の学校法⼈産業能率⼤学主催「2010ワークマネジメント研究会」にて講演いただいた内容を編集したものです。
【ピジョンハーツ株式会社 プロフィール】
◆設 ⽴:1999年
◆本 社:〒103-0005 東京都中央区⽇本橋久松町4番4号
◆代表者:代表取締役社⻑ ⾚松 栄治
◆資本⾦:1億円
◆事業内容:保育サービス事業
(事業所内保育施設の企画・運営受託、保育施設の企画・運営コンサルティング、認可保育園・東京認証保育園の受託運営、ベビーシッターサービス、幼児教育の運営、研修事業)
◆保育⽅針:「 育つ⼒を育てる」
◆従業員数:924名(2009年1⽉31⽇現在)
ピジョンハーツ株式会社
取締役 町家 佳⼦ ⽒

次世代の経営⼈材輩出を目的とした『次期経営層への育成プログラム』の実施

ピジョン株式会社では、2004年から次世代の経営⼈材の輩出を目的とした
『次期経営層への育成プログラム』として選抜教育を実施しています。

当社が考える経営⼈材の定義は、
「⼤局的な⾒通しを持って事業基盤の設計を⾏える⼈物」
「将来を予測しながら事業の⽴案・推進を⾏える⼈物」

となっており、そのガイドラインとして想像⼒、創造的⾰新⼒、対⼈影響⼒、⼈材開発⼒といったコンピテンシーを設定しています。
『次期経営層への育成プログラム』は⼤きく4つのフェーズにより構成され、参加者はその中で教育・評価・選抜されていくことになります。(上図)

参加資格は⼀定の等級以上で45歳以下であること。
またエントリーには⾃薦と他薦の2通りあり、公募は6年に⼀度の割合で⾏われています。エントリーの際は、まず応募理由やこれまでの実績、ビジネスプランなどを記⼊したエントリーシートを提出。その中から20〜30名が選ばれ、最初のフェーズとなる『発掘プログラム』に参加します。

『発掘プログラム』

発掘プログラム』では、『キャリア創造セミナー』というアセスメントを含めた3⽇間の研修のほか、⾃分の上司や同僚からの360度診断、経営層や産業能率⼤学の講師との⾯談を⾏います。

私感ではありますが、この取り組みは⾃分が何者であるかといったコンピタンスについての再認識を求めるものであり、経営参画意欲を重要視したプログラムといえます。

『育成プログラム』

『発掘プログラム』でのアセスメントにより、10~15名で実施されるのが『育成プログラム』です。これは1年間に及ぶ研修で通信研修による知識学習と、集合研修による応⽤学習、⾯談で構成されています。
特に集合研修では、取締役も講義を担当。外部講師による経営知識の学習とともに「経営とは」「経営者のあるべき姿とは」といった経営思想を徹底的に学んでいきます。

ここでのアセスメントのポイントとなるのは通信研修の結果と集合研修の結果、研修最後に書く論⽂です。私の場合は、通信研修の結果が悪く「ちゃんと勉強をしなかっただろう」と、叱られた記憶があります(笑)。

『活⽤プログラム』

通信研修添削結果、集合研修結果、提出論⽂内容により残った10名は、2つのチームに分けられ、アクションラーニングに取り組みます。
私たちのときのテーマは「経営に影響を与える中期レベルでの事業プラン」。活動はチームメンバーを中⼼に、執⾏役員のバックアップを受けながら⾏われました。各⾃がスケジュールを調整しながら、外部の⽅の講演を聴いたり、ときには経営者に対するトップヒアリングを⾏いながらディスカッションを重ね、1年をかけてアクションプランを作成。最終的には経営層への答申を⾏います。

答申内容はもちろんのこと、グループ内でのリーダーシップの発揮や的確な⾏動⼒などが査定されます。最終的には5名程度が『登⽤プログラム』に進んだ上で、2年以内に⼤きな役割を担っていくという仕組みになっています。

『登⽤プログラム』

選抜教育の合格者といわれる『登⽤プログラム』に残ったメンバーは、第1期で3名、第2期で1名となっており、(『次期経営層への育成プログラム』はこれまでに2回実施)それぞれ取締役、執⾏役員、⼦会社の社⻑および事業部⻑に任命されています。

ちなみに私は第1期の『活⽤プログラム』までとなっており、『登⽤プログラム』のメンバーには⼊っていません。にも関わらず、現在の私は⼦会社(ピジョンハーツ株式会社)取締役という職についており、また他のメンバーにおいても執⾏役員や⼦会社社⻑、部門⻑、課⻑などに任命されて います。

私なりにこの状況を分析してみますと、やはり『次期経営層への育成プログラム』を通じて、それまでの⾃分の知識や経験を“経営”という視点に置き換える訓練を受けた結果のように思われます。
『登⽤プログラム』まで残るメンバーは少数ですが、そこに⾄るプロセスの中で、参加者は確実に「知識と知恵、⼈脈、さらには経営セオリーを習得できる仕組みになっているというわけです。また、周囲から『次期経営層への育成プログラム』を通過したメンバーと認識されるため、上司や部下、他部門の協⼒が得やすいという利点があるのも、活躍を可能とする下地になっているといえるでしょう。

ピジョングループにおける⼥性管理職の可能性と制約

さて、ここで「⼥性管理職」のお話に移らせていただきたいと思います。
現在、私が取締役を務めるピジョンハーツ株式会社は、1999年に保育⽀援事業の展開を目的に設⽴された会社で、ベビーシッターの登録者を除いて924名という⼤所帯の会社であり、そのほとんどが⼥性で構成されています。
現在、私が席を置くフロアでは45名のスタッフのうち男性はわずか6名。ピジョン本社の⼥性⽐率が3割であることを考えると、グループ会社の中では非常に特殊な構造を持つ会社であるといえます。

そのような環境にあって、⼥性管理職の可能性は非常に⾼いです。あくまでも私⼀⼈の主観としてですが、いったん管理職として配置すれば、120%の⼒を発揮していくと考えています。
その理由はいくつかありますが、ひとつ間違いなくいえるのが⼀⽣懸命働く⼥性たちというのはたいがいの場合、頭がいいということ。そして柔軟性が⾼く、⼈⼼への配慮ができるという特性を持っているということです。
また、育児やマタニティ、⼥性ケアを主業務とするピジョングループならではの特性として、⼥性管理職はピジョンブランドの表現者となりうるというメリットがあると思います。

ただし、⼥性管理職の育成については⼤きな制約があるのも事実。

そのひとつがライフステージにおけるタイミングの悪さです。
『次期経営層への育成プログラム』を例にすれば、エントリー対象となる30代後半は、おおむね育児に多くのエネルギーを注いでいる時期。エントリーしたくても数ヶ⽉ごとに数⽇間の泊まり込みがある選抜教育を受けるのは難しく、結果として諦めざるをえないと考える⼥性が多いというのが現状です。
また、せっかく管理職に昇格しても、育児との両⽴で消耗しきってしまうというケースも⾒受けられます。
「こうありたい」という仕事上のキャリアと育児についてのその⼈なりのビジョン。その両⽅を妥協なく追いかけることは時間的にも精神的にも厳しいようで、⾃然とどちらかを選択せざるをえないと考えがちです。

さらにもうひとつの⼤きな問題。それは目標とすべき先⼈が少ないということです。
私が管理職になった当時、⼥性管理職はわずかでした。つまり、⾝近に⼿本とすべき⼥性管理職のモデルケースがなかったのです。幸い『次期経営層への育成プログラム』の同期として、管理職の⼥性がいたので、お互い励まし合いながら頑張っていけましたが、もし彼⼥がいなければ現在の私はなかったように思います。

今ちょうど、私とその⼥性を後ろから⾒てきた世代が管理職になろうとしています。聞いたところによると「地道に泥臭いやり⽅で乗り越えていくタイプの管理職」「清潔感あふれる真⾯目タイプの管理職」と私たちを2つのタイプに分け、「私はどちらのタイプを目指していこう」といった話も出ているようです。そういう意味ではタイプの違う2つのモデルを提⽰できているのではないかと考えています。

⼥性管理職の育成にあたり、後輩たちに伝えるべきこと

1. 愛すべき⼈、ライバル、パートナー、守るべき⼈を持つ

もしも、私が後輩に対してメッセージを伝えるとしたら、それは「同じ会社内、または業界内に愛すべき⼈、よきライバル、仕事上でのパートナー、守るべき⼈を持つこと」。そうすることで⼈間としての幅は確実に広がると思いますし、会社に対する信頼感も⽣まれます。

私⾃⾝がそのことに気付くきっかけとなったのが今回お話しした『次期経営層への育成プログラム』でした。同じ目標を持つメンバーと2年間という⻑期にわたり活動してきた中で得たものは、万が⼀⾃分が倒れても、他のメンバーがやり遂げてくれるだろうという仲間への信頼感。「こいつだけには絶対に負けない」というライバル⼼。「この⼈と組めば、たいがいのことはやり抜ける」と感じられるパートナー。そして、私⾃⾝が守るべき部下やその家族、さらには⼦会社や協⼒メーカーの数々を意識すること。その後の管理職としての活動の中で、これらがいかに⼤切であるかを実感しました。

2. 共通⾔語の重要性を認識する

有効な経営戦略のひとつとして多様性が注目されていますが、私どもピジョンハーツにおいても性別、経験、年齢、国籍、専門性、家庭状況、勤務条件、価値観などの違うさまざまなスタッフが働いています。そうしたスタッフがひとつになってピジョンハーツが目指す保育のあり⽅を実践していくためには、組織の壁を越えて誰もが理解できる共通⾔語を浸透させるしかありません。そのためには、さまざまな部門の話を聴くこと、さまざまなフィールドに⾶び込んで共通⾔語を獲得していくことの重要性を⼀⼈ひとりが認識していかなければなりません。

3. ⾃⾝のポジショニングを知る

⾃信をなくしているスタッフに対して、よくポジショニングの話をしています。ここでいうポジショニングとは、マーケティングで使われるポジショニングの2軸のこと。つまり「強みを2つ持とうよ」という話です。「⾃分のポジショニングを書いてみて」「例えば、隣の席の⼈や周りの⼈を同じ軸に置いたときに⾃分がどう⾒える?」などと語りかけ、どうしても強みを2つ⾒つけられないスタッフに対しては、上司としての視点で各⾃の⻑所を指し⽰してあげるよう⼼掛けています。

4. 好奇⼼は宝

スタッフには常々好奇⼼を持つよう呼びかけています。私⾃⾝が先⽇まで商品開発本部にいたために、なおさらそう思うのかもしれませんが、好奇⼼がないところに良い商品や企画は⽣まれないと強く感じています。

5. ⾃分の年齢に合わせた視野範囲を意識する

⾃分⾃⾝を振り返って思うのは、業務的視野には発達段階があるのではないか?それを意識すべきではないか?ということです。
例えば、20代では⾃⾝の強みをつくり上げ、弱みを知ることに集中する。30代の中盤までは「⾃分の部署をどうしたいのか」「部署の理想のかたちとはどういったものか」について考える癖をつけるといった具合です。もちろん、それらは年齢だけでなく、社会⼈歴、社歴、経験値によっても変わってきますが、相談をうける時などは、わかりやすく年代で切って話をしています。

(2010年3⽉3⽇公開、所属・肩書きは公開当時)