【事例紹介】株式会社JALホテルズにおけるブランド価値の向上を実現させる⼈づくり、組織づくり

はじめに

理念や⾏動指針などの抽象的な概念はなかなか現場に浸透しづらいもの。
しかし国内にとどまらず海外エリアへも理念を浸透させ、目に⾒える成果を上げているのがJALホテルズ様。
『いつもの安⼼、進化する快適』というビジョンをチェーン全体で実現させるため『Origin8』という⾏動指針を策定。
様々な施策と各種仕組みを連動させながら、この『Origin8』運動の実践を通じて、理念の浸透・定着化を推進中です。
推進チームの「熱」が現場に伝わり最前線が活性化し、⼈も組織も成⻑している、そんなJALホテルズのブランドマネージメント部⻑ 是洞幸孝様にお話を伺いました。
マンガで理解できる『Origin8物語』(冊 ⼦)

  • 本編は2008年11⽉7⽇の産業能率⼤学主催『組織変⾰を実現する⼈材育成の新たな潮流』フォーラムにてご講演いただいた内容を編集したものです。

JALホテルズ プロフィール

創 業 1970年(昭和45年)
本 社 〒140-0002 東京都品川区東品川2-4-11 JALビル
代表者 代表取締役社⻑ 千代 勝美
資本⾦ 42億円7,200万円(2008年3⽉31⽇現在)
事業内容 国内及び海外のホテル経営とホテルの運営受託

ビジョン実現のための『Origin8』とは

現在JALホテルズは世界に約60ホテル(客室数で約19,000室)を展開しておりますが、グローバル化や環境変化が進むホテル業界において、JALホテルズとしてどの⽅向を目指し、何を追求していくのか?を⽰すチェーンビジョンとして『いつもの安⼼、進化する快適』を掲げたのが2004年になります。

同時にこのビジョン実現に向けた⾏動指針であり、様々な活動を有機的に結びつけ⼀つの運動として体系化させた『Origin8』を⽣み出しました。

実は私たちはこの『Origin8』に2つの意味を込めています。

⼀つは私たちの⾏動のOrigin=源泉となるもの、具体的には「笑顔」「感性」「楽しむ⼼」「連携」「情報」「点検」「衛⽣」「安全」という8つを意味しており、これらは私たちがサービスを提供したり、様々な業務を遂⾏したりする際に、常に⽴つべき(戻るべき)視点=すべての源泉なのだ、というメッセージ。

そしてもう⼀つは『Origin8』を早⼝で⾔うとオリジンエイト→オリジネイトになりますが、私たち⾃⾝の⼿で商品やサービスを絶えずオリジネイト(創造・創始)しよう、創造する⼼を持とう、という意志を込めているのです。

前述の通り『Origin8』は、ビジョン実現のための⾏動指針であるだけでなく、スタッフ1⼈1⼈が
「創造する⼼」を持ち、⾃ら考え⾏動していこうという運動でもあります。

実は『Origin8』推進活動を通して、私たちが目指したのは、「⼈づくり」「組織づくり」でもあるのです。ホテルの主⼒商品=サービスの源であるスタッフを成⻑させ、強く豊かな組織づくりを進めていこうという視点に⽴ち、これまで私たちはこの運動に取り組んできました。

推進チームの「こだわり」と「腹決め」

この運動はまだ4年目で現在も進⾏中ですが、「『Origin8』の理念と運動をチェーン内に浸透・定着させる」取り組みをスタートさせる際に、チームとしての「こだわり」と「腹決め」をしました。その時⼀番こだわったのは、「このミッションのお客さまは、ホテルの最前線で頑張っているスタッフの皆さん」という点です。彼らは私たちにとって直接的なお客さまであり、「どれだけ多くのスタッフの笑顔を創り出せるのか」を⼤切な軸として展開していこうとチーム内で確認したのです。

従って「上から目線を⽌める」「仕組みや型の強制・強要をしない」ことを徹底しました。つまり常に現場のスタッフの視点に⽴ち、彼ら=私たちのお客さまにとって何が役に⽴つかを⼀緒に考え、時に俯瞰しながら彼ら⾃⾝の「熱」を⾼めていく姿勢をとりました。

また『Origin8』運動推進プランの⽴案に際しては、「⼀気に全スタッフの笑顔創出は無理だ」と考え、以下のようにいくつか「腹決め」をしました。

  1. 注⼒すべき推進エリアを絞り、⼀気集中して展開させていこう。
  2. ⼀気にこの運動の最終ゴールを目指すのでなく、あえて活動目標を⼩分けにし⼩さな成功体験を全員で体感、共有することを積み重ねていこう。
  3. そこでの取り組み事例の中から、基本の型(=推進⽅法のモデル)を構築していこう。
  4. 私たちのチームから全ホテルに対して公平公正に機会&情報提供をしながら、運動の展開⾯で潜在⼒があり、チェーン内で影響⼒が強い⼀部ホテルへの個別⽀援を通じて成功事例を引き出す「エコひいき⼤作戦」も発動しよう。
実は私たちもどんな推進⽅法が正解なのか?掴めていませんでしたから、基本の型、推進モデルが必要でした。

前述の通りチームの共通意識としての「迷った時はお客さまであるスタッフの皆さんに聞く」の精神に則り、「答えは常に最前線にある。お客さまにある」と信じ、できる限りそこへ⾜を運ぶことにこだわりつつ、⼩分けをしたゴールの達成に向けて試⾏を重ね、そこで得られた有益な情報、仕掛けや成果を⼀つ⼀つ拾いながら、それらをナレッジ・ノウハウとしてチェーン全体に対してドンドン提⽰し共有しながら、モデルを構築してきたのです。

推進プランの展開とさまざまな施策

こうした「こだわり」と「腹決め」はチェーン全体の推進プランを⽴てる上でも基本的に変わりません。

簡単に申し上げれば国内から世界中の60ホテルにどう広げていくのか?

  1. まずは⽇本国内から運動を⼩分けにし、その⽴ち上がりの⽀援をスタート。その過程で様々な施策にトライし、推進モデル(基本の型)を確⽴させる。
  2. 順次、⽇本での推進モデルを「型」としそれを雛形として、⽇本国外各エリアに即した推進⽅法をそのエリアのスタッフと共に試⾏し、定着を狙っていく、という流れを組みました。運動の展開の⼿順は次のようになります

全スタッフに『Origin8』を知っていただく

全スタッフに『Origin8』を知っていただくために、まずは様々な広報&啓蒙ツールを制作し、チェーン内の全スタッフに配布しました。

例えば『Origin8物語』というマンガ形式の冊⼦や、いつでも携帯できる『Origin8カード』を⽇本語・英語・中国語版にて制作&配布しています。

また年次版で取り組み成果をまとめた『Origin8レポート』を2006年度版から⽇英版で刊⾏しています。これはナレッジ・ノウハウの共有、「お隣は頑張っているな」というチェーン内での競争意識の醸成や、次年度の推進プランを掲載することで、各ホテルの「コミットメント」を引き出す狙いがあります。

また各ホテルの温度を⾼めていくには、やはり組織のトップの理解と協⼒を引き出すことが必要です。そこでとにかく直接彼らと語る機会を多く持つようにしました。

年に1回の総⽀配⼈会議では1時間の枠を取り、『Origin8』の取り組みについて話をする場を設けていますし、幹部クラスの⽅々を対象にした勉強会も各ホテルで開いています。

第1ステージ=まずは『Origin8』をやってみよう︕

このステージのゴールを設定する際には、収益アップでもお客様満⾜度のアップでもなく、まずは「スタッフの満⾜度を上げる」ことを最優先にしました。

つまりホテル業にとってスタッフの皆さんが私たちにとっての⼤きな財産なのであり、彼ら⾃⾝が「この職場、このホテル、このチェーンで働くのがやっぱり良いな」とどれだけ⾔っていただけるか?が、何より⼀番重要なのです。

そしてその状況を確⽴させる事が、お客さまへのより良いサービスの提供につながり、それがお客さまの満⾜度の更なる向上を引き出し、結果として次回のご来館につながる・・・そんな好循環を創り出していけるはずだと考えた訳です。

それでは、いかにしてスタッフの満⾜度を上げるのか?それにはスタッフ同⼠が仲間の頑張りをちゃんと⾒守り、頑張るスタッフに対してはその仕事の内容を素直に褒める(仲間から褒められる)ような風⼟創りが重要だと考えたのです。

そこで『Origin8』運動を通じて「褒める」「褒められる」⽂化をチェーン内に醸成し、定着させることを、第1ステージのゴールと定めました。

「褒める」「褒められる」⽂化をどう創るのか

ゴールを定めたら、これを実現させるための風⼟づくりのため、⼤きく4つの仕組みを創りました。

上記1の各ホテルの事務局担当者は、国内では現在総勢で120名強が活動中であり、海外エリアへも拡⼤しています。

上記2の事務局担当者会議はエリア毎で半年に1回のペースで開催しており、これも⽇本国内から中国・東南アジアや、ミクロネシアエリア等へも拡⼤しています。

上記3の情報共有媒体としては、「みんオリ」(みんなのOrigin8)の名の下、毎⽉1回A4判8ページに最新トピックスや、各種ナレッジ・ノウハウを特集企画として編集し、⽇本語版・英語版にて全ホテルの担当者及び総⽀配⼈に対しメール配信しています。

さらに2008年夏からは「みんオリWEB」として専⽤WEBサイトを⽴ち上げており、これにより関係者は必要な情報をいつでも引き出せるほか、各ホテルが⾃分のホテルでの好事例などをこのサイトに直接掲載できるようにしています。

上記4の「エコひいき⼤作戦」は、例えば「みんオリ」の取材に託けて私たちが各ホテルにお邪魔し、実践していることをヒアリングしたりする中で、このホテルの活動をもう少し後押ししたら更に良くなるな、というポイントについてその場でアドバイスし活動をサポートしつつ、それらの取り組み内容をレポートとしてまずはチェーン内に発信します。
そしてその後そこで何らかの成果が出た場合には、それを再度レポートとして配信する訳です。

この場合、取材された側のホテルにとってみれば、「私たちの取り組みが写真付きでレポートされている」とモチベーションUPにつながると共に、他のホテルにとっては有益なナレッジ・ノウハウの共有が可能となる訳です。

こうした仕組みを活⽤しながら、第1ステージのゴールに向けて、具体的には全ホテルで「⽇々の活動」と「MVP制度」という活動の⽴ち上げと定着を狙っています。

簡単にその内容をご説明するならば「⽇々の活動」は2つの取り組みから構成されており、⼀つはその⽇の取り組みテーマを定めること。もう⼀つは「Good job!レビュー」の実施となります。例えば「今⽇は“笑顔”でいこう︕」という具合に、職場での朝会などで『Origin8』の8つのテーマの中からその⽇のテーマを⼀つ選び、そのテーマを意識しながら働いてみよう、頑張ってみようという取り組みです。

そして終業時に当⽇のテーマの視点から⾃分や同僚の⼀⽇の仕事を振り返ってみるのです。そしてその際に仲間の良い仕事を発⾒した場合には、率直に「あの仕事良かったね」とコメントし、そのスタッフを褒めると共にその良い仕事の内容を全員で共有することを「Good job!レビュー」と命名し実施しています。

そしてそれら各職場に於ける⽇々のGood job!を蓄積し、定期的に、例えば1ヶ⽉に1回、それらGood job!の中からNo.1を選出し、その実践者を表彰する制度を「MVP制度」として運⽤しています。
この場合、実践者を表彰することだけでなく、その素晴らしいGood job!の内容ややり⽅をホテル全体で共有することが重要であるとも捉え徹底させています。

またこうしたGood job!の実践者を褒め、各種成功事例(ナレッジ・ノウハウ)の共有を各ホテル単位に留めるのではなく、常に前述の「みんオリWEB」を通じてチェーン全体でタイムリーに共有していくと共に、全ホテルでのMVPの中から1年に1回、チェーン全体(Origin8 Award)にて、そしてその先にはJALグループ全体(Dream Skyward賞)で表彰されると共にその内容が共有される・・・まさに各職場からJALグループ全体まで貫く“⼀気通貫”の仕組みを構築し、現在運⽤しています。

『Origin8』を通じて更なる挑戦へ

第2ステージ=『Origin8』を通じて…もっと!への挑戦

4年目に⼊り『Origin8』の活動も国内外の各地でまさにオリジネイトされた様々なアイデアが出てきています。
こうなると私たちとしても、もっとスタッフが主体的にサービス内容や業務フローの改善を職場の仲間達と協⼒し継続的に実⾏できるようになって欲しいとも、もっとスタッフが組織の壁を超えて新商品を企画して提供できるようになって欲しいとも、彼らに対して持ち掛けられる状況になってきました。

そこでスタッフ個⼈によるGood job!に加えて、チームによるGood job!を「サークル活動」と命名し、各ホテル・各職場にてその取り組みをスタートさせています。

これ以外でも『Origin8』運動の推進を通じて、⼈を育て、組織を強くしていくという視点から、いくつかの取り組みもスタートさせています。

その⼀つが各ホテルの各職場に於ける次世代のリーダーが、職場やホテル内の先頭に⽴ち、『Origin8』運動を率先垂範できるよう育成⽀援する「Origin8マスター養成研修」を運⽤し、既に国内で50名弱が正式認定され、海外でも約20名がマスター候補として2009年/春での正式認定に向けて現在活動しています。

また更にその先には、ホテルの枠にとらわれないでチェーン全体へと活躍の場を拡げてリーダーとしての役割を発揮し各種成果を導き出せる⼈材を「Origin8グランドマスター」と命名し、彼らを育成していく仕組みの確⽴に向けたトライアルも開始しています。

このようにまだまだ道半ば、の『Origin8』運動ですが、これを推進してきて学んだことは、まずは推進当事者の「熱」が⼤事だということです。
その熱い想い、熱い意志が仲間に伝わり、仲間を動かし、仲間から別の仲間へとその「熱」が伝播していきます。

よって私たちはこの運動推進の⿊⼦に徹しつつもこの「熱」を忘れることなく、⼈を育てたい、組織を強くしたい! そして新たな⽂化を育むための種を蒔き続け、しっかりと根付かせたいと思っています。

現状では、まだまだ⼩さな変化の芽が出てきたところですが、いつか⾊とりどりの花を咲かせたいですし、⼤⼩様々な果実を実らせたいと考えています。そのためにも、みんなで⼩さな変化を⼀つ⼀つ積み重ねながら「ありたい姿」に向かって前進してまいりたいと思っています。

(2008年11⽉7⽇公開、所属・肩書きは公開当時)