【事例紹介】株式会社カネボウ化粧品のビジョンに根ざした⼈材育成〜「⾃由と⾃⼰責 任の原則」に基づく⾃⽴⼈材〜

はじめに

「⾃由と⾃⼰責任」の原則に基づく⾃律した⼈材であり、チャレンジングな目標に果敢に挑戦する⼈材の育成に取り組む株式会社カネボウ化粧品様。
今回は⼈事育成を通した、経営成果と社員の成⻑への貢献、さらには機能する社員教育を構築し、運⽤していくためには何が必要なのかについて、同社⼈事・労務室⼈材開発グループ統括マネージャーを務められている川豊宣様にお話を伺いました。
カネボウ化粧品教育センター
【カネボウグループプロフィール】
◆設⽴:2004年(平成16年)5⽉7⽇
◆本社:〒105-8085 東京都港区⻁ノ門5-11-2
◆代表者:代表取締役兼会⻑執⾏役員 ⾼⼭外志夫
     代表取締役兼社⻑執⾏役員 知識賢治
◆資本⾦:75億円(2006年11⽉10⽇現在)
◆事業内容:化粧品全般の開発、製造、販売
◆従業員:13,483⼈(2007年度末)

※本編は2008年6⽉17⽇の産業能率⼤学主催『機能する社員教育制度について考えるフォーラム』にてご講演いただいた内容を編集したものです。

⼈材育成の根幹をなす経営理念と⼈事育成理念

私どもカネボウ化粧品の⼈材育成についてお話しするわけですが、その前提として知っておいて頂きたいのが、弊社の経営理念と、それに基づく⼈事育成理念です。

経営理念のキーワードは「成⻑」です。化粧品に保証書は付いていません。つまり接客担当者が保証者となるわけです。お客様に満⾜を提供し続けるためには、接客担当者をはじめとした全従業員が常に勉強を続け「成⻑し続ける企業」を目指さなければならないと考えています。
⼈材育成を担当する「⼈材開発グループ」では、変⾰⼈材の育成を目的とした⼈事育成理念として

「⾃由と⾃⼰責任」の原則に基づく⾃律した⼈材であり、チャレンジングな目標に果敢に挑戦する⼈材の育成を掲げています。

ここでいう“⾃由”とは、社員⼀⼈ひとりが現在担っている役割の中で、来期は何をしたいかを⾃分⾃⾝で決めてくださいという意味です。「来期はこれをしろ」と会社側が⼀⽅的にいうのではなく、⾃分が果たす役割を⾃分⾃⾝で考えるということは、⼈材育成の観点では非常に重要なことでもあるのです。

もうひとつ⼤切なのが“⾃⼰責任”です。その定義は、仮に失敗したとしても、もう⼀度⽴ちあがれるということ。そして⾃分で決めたことは⾃分⾃⾝でやり切るということです。まさにセルフマネジメントの考え⽅というわけです。

会社としては、将来に活躍する⼈材に投資していきたいと考えますが、社員(個⼈)は、カネボウというフィールドで⾃⾝の成⻑と⾃⼰実現を目指したいと考えます。

そうした両者の思いを同時に実現させるためには、企業にとっての利益や成果だけを優先されるのではなく、社員⼀⼈ひとりの成⻑とともに組織も成⻑しようという考え⽅が重要です。

ただし、優先されるのは、あくまでも⼈であって企業ではありません。すべての従業員が⽇々成⻑することで、はじめて企業も成⻑していけるのです。

つまり組織が求める成果達成には、個⼈のキャリア開発の視点を取り⼊れる必要があるのです。その視点が⾜りないと個⼈は組織に依存し、⾃⼰成⻑する⼒を失う⼀⽅、組織は有能な個を育成・輩出できず、業績向上への原動⼒を失ってしまうでしょう。

私たちは、「個⼈はカネボウ化粧品の⼈間であるまえにビジネスパーソンである」と考えています。ビジネスパーソンとしての“質”を⾼めるというのはとても⼤切なことです。個⼈のキャリアマネジメントをいかに進めるか、これが⼈材育成のきわめて重要なキーワードとなるのです。

組織が求める成果達成に不可⽋な個⼈のキャリア開発

弊社ではキャリア形成を5つのステージで考えています。

キャリア形成の視点

第1ステージ

新⼊社員に対し⾃⾝の資産価値向上に向けた⾃⼰のキャリア形成の重要性を「気付かせる」ステップです。

第2ステージ

社内価値向上を図るため、ローテーションで様々な仕事を経験してもらいます。弊社では⼊社3年目で全員の転勤を実施し、20代から30代の半ばまでのこのような多様な仕事経験により、⾃⾝のキャリアについて考える機会を提供しています。

第3ステージ

社内での⼈脈を広げ、ひと通りの経験を積んだ35歳をひとつのターニングポイントと定めた上で、市場価値について考えてもらいます。
「カネボウ化粧品内では通⽤するが、よそでは通⽤しない」では意味がありません。できるだけ社外の⼈と接する機会を設けることで、エンプロイアビリティの確保に努めてもらいます。

第4ステージ

45歳から55歳が対象です。さまざまな経験を積んできた45歳の社員に、勉強の必要性を感じてもらうのは難しいことです。しかし、経験も重要だが成⻑も必要不可⽋です。常に上司が勉強し成⻑する姿勢を部下に⾒せることが部下からの信頼につながります。
だからこそ、当社ではキーワードとして“常に成⻑する”を挙げています。
当社では60歳での再雇⽤制度を導⼊しています。しかし、定年になってはじめて残るか外にいくか考えるのでは遅すぎます。

第5ステージ

⾃⼰資産の総仕上げを⾏った上で、セカンドキャリアを考える場を提供したいと考えています。

以上がカネボウ化粧品でのキャリア形成の考え⽅となっています。但し、 年齢軸はあくまで優良⼈材をモデルにしています。

カネボウ化粧品における研修体系の考え⽅

1.基本教育・ステージ別教育

新⼊社員を対象とした基本教育は3年間続きます。

最初の1年は弊社養成担当者による研修を実施します。事前に養成担当者を任命。この養成担当者にしっかりとした研修を⾏った上で、新⼊社員の基本教育に取り組んでもらいます。

責任を持ってカリキュラムを組み⽴ててもらうわけですが、それらはすべて事前に⼈材開発グループに提出してもらうことでOJTの強化を図っています。

基本教育では、⾃分の仕事を⾃分の頭で考え、出した結果について⾃分で責任をとるという「⾃由と⾃⼰責任」の原則に基づく⾃律⼈材育成プログラムを実施します。

⾃由と⾃⼰責任の時代に⾝につける能⼒要素は、(1)⾃⼰管理能⼒ (2)論理的思考⼒ (3)オープンな議論をする⼒です。
この3要素を基本教育で習得させます。

なお、ステージ別研修とは「ファシリテイターとしての新任主任研修」や「MBOの推進者としての新任係⻑研修」を実施しています。

2.⾃律⼈材育成(企業内ビジネススクール)

ここではポイント型能⼒開発⽀援制度を導⼊しています。

上⻑との評価⾯接時に⼈事考課・要件に応じてポイントを発⾏し、獲得ポイントにより、企業内ビジネススクールをはじめとした各種カリキュラムが受講できるシステムです。

カリキュラムはビジネスパーソン領域とスペシャル領域で構築しており、共通のキーワードとして「将来めざしたいキャリアを考え、頑張って挑戦しているひとを、必ず⽀援する」を掲げています。

研修には「外部教育団体による研修」「⾃社で運営する研修」「通信研修」の3つのコースがあり、獲得ポイントにより参加できる研修が変わります。なお、参加費⽤は2割を⾃⼰負担して頂くというルールを設定し、途中でやめた場合は全額請求としています。

3.選抜型研修(経営幹部育成・次世代リーダー研修)

⻑期的視点による基幹⼈材育成研修として、弊社ではサクセッション・プランを導⼊しています。
これは将来の経営幹部を選抜・育成することを目的に、資質のある⼈材を早期に選び出し、社内の重要ポジションをローテーションさせ、経営幹部として求められる資質、能⼒、経験、⼈脈を開拓させるというものです。

対象は各統括マネージャーが⾃ら選んだ⼈材が候補になります。具体的には、⾃⾝が1年以内に異動した場合の後任⼈材、また2~3年後を目処とした後任候補として育成可能な⼈材、そして4~5年後を目処とした後任候補として育成可能な⼈材の中から意図的・計画的に選抜することになります。

この制度には、管理職の重要な責務である「部下を育てる(後任候補者の育成)」という⾏動側⾯をより強く導き出すことにより、より⾼いマネジメントレベルの発揮を促す効果も望めます。

なお、弊社では基幹⼈材育成を「経営幹部企業家⼈材」「マネジメントリーダー」「マネージャー」の3段階で実施しています。

4.⼥性選抜型研修

現在、当社では係⻑職の23.1%を⼥性が占めています。
しかし課⻑職となると少なくなってしまいます。

化粧品メーカーである当社では社内の男⼥⽐を、顧客の男⼥⽐を反映した構成にしたいという、極めてシンプルな顧客起点の発想のもと、将来の⼥性幹部を選抜・育成することを目的に資質のある⼈材を選抜しています。

⼥性のリーダーとして求められる姿を理解し、必要となる知識、姿勢、⾏動を学び、現場で検証しながらリーダーとしての基盤づくりを目指しています。

5.階層別キャリア研修

階層別教育の各段階からキャリア研修を組み⼊れることで、セカンドキャリアへの動機付け意を目指しています。

充実したセカンドキャリアを構築していくために必要な情報を収集し、⾃⼰理解を深め、⾃分⾃⾝が選択したプランについてコミットメントできるよう⽀援しています。

6.今後の課題

弊社において、⼈材育成は最も重要な戦略のひとつとして捉えていくことになるかと思います。今後は研修費⽤を単なる「管理費」若しくは、「福利厚⽣費」の⼀項目として捉えるのではなく「投資」や「ROI」の世界として考えていくこと。そういうことを考える次の段階にきていると感じています。これからは“成⻑を目指す”⼈材育成制度ということで、投資効果をどこまで顕在化していくことができるか、それが今後の課題と考えています。

(2008年6⽉17⽇公開、所属・肩書きは公開当時)