『グローバル人材』の要件とは【後編】

日本IBMにいた頃、私は米国IBMのCEO補佐を務めて日本に戻ってきた人物と顧客訪問する機会に恵まれた。

その時、顧客の社長がその人物に「アメリカ人のトップと英語でビジネスの議論をするのは大変でしょう?」と質問した。
すると「いやぁ、アメリカ人と議論する方がむしろ楽なんですよ。彼らは、『結論と根拠』をきちんと組み立てて話せばすぐにわかってくれますから。余計なことを言う必要がないんですよ。その点、日本語の会話は難しいですよ。結論がよくわからないし、言葉のニュアンスや行間を読まないと相手の真意がつかめませんから…」と言っていた。

多少の謙遜はあったと思うが、ビジネスにおける日米のコミュニケーションスタイルの違いを端的に表したものだと感じた。
コミュニケーションにおける日本人の『論理性の欠如』という問題を克服するために、私は数年前から主に大手企業の若手社員を対象に「ロジカル・コミュニケーション研修」を実施している。なぜ、主に若手を対象にするのかといえば、若い方が早く習得でき、企業にとってもその後長く勤めてくれる分、教育の投資対効果が高いからである。

ロジカル・コミュニケーションの要諦は、『結論と根拠を構造化し、簡潔で無駄のない情報交換をすること』であるが、『言うは易し、行うは難し』である。すでに多くの若手社員に受講してもらったが、研修で課す演習に皆大変苦戦している。苦戦しているポイントは主に2つ。第一に、自分が言いたいことの結論をすぐに明確にできないこと。第二に、その結論を支える複数の根拠をすぐに示せないことである。これは、話を回りくどく曖昧に表現する傾向のある日本語のコミュニケーションに慣れ親しんできた影響だといえる。

研修の中で「ビジネス場面におけるコミュニケーションは、いかに簡潔に結論と根拠をわかりやすくつないで説明するかが大切」と教えると、新人の社員からは「大学の先生の講義は冗長だし、教えられた論文の書き方とビジネス文書の書き方は正反対。大学時代にこういうことは教えて欲しかった」という声を非常によく耳にする。現在の日本の大学の多くが、ビジネスの現場ですぐに活かせる力(ビジネススキル)を養成する機関になってないことの証左であるように思う。

今後、日本社会がグローバル人材を輩出しようとするならば、語学教育と併せてロジカル・コミュニケーションを若いうちに習得させることが近道であるように思えてならない。そのためにも、まずは大学が必修科目として導入することで日本企業が目指すグローバル人材の育成に大きく貢献することができるのではないだろうか。

榊原 康成(サカキバラ ヤスナリ) 学校法人産業能率大学 総合研究所 主幹研究員

【学歴/職務経歴】
1986年~ 日本アイ・ビー・エム(株)勤務を経て、組織・人事系コンサルティング・ファームにて大手企業から中堅企業までを対象にコンサルティング活動に従事
2003年 学校法人産業能率大学入職 現在に至る

【研修活動領域】
◆ビジネス研修領域
1.各種階層別研修(部長/次長/課長/係長/主任など)研修の実施
2.各種職場マネジメント研修(Driving Force / OJD活性度診断)の実施
3.人事制度の各種運用支援研修(目標管理/人事考課/キャリア開発)の実施
4.営業職の体系的なスキル・アップ研修の実施
  -営業の折衝力・商談力向上研修
  -ビジネス提案書の作成研修
5.各種ビジネスリテラシー研修の実施(※以下、主な内容)
  -コミュニケーション研修(コーチング/ソーシャルスタイル/PAS/PIA)
  -ロジカル・シンキング研修(ロジカルライティング/ロジカルコミュニケーション)研修
  -プレゼンテーション研修
  -インタビュー研修
  -現場の問題発見力強化研修(複眼的思考)
  -ファシリテーション研修(標準版/プロフェッショナル版/コンフリクト版)
  -コンフリクトマネジメント研修

◆コンサルテーション領域
1.各企業の経営戦略・事業戦略に連動した『人事・人材戦略』の立案
2.人材戦略を具現化するための各種『人材マネジメントシステム』の設計
  -教育・研修体系と事業部別の「キャリア・マップ」等の設計
3.各企業の事業(職務)特性を踏まえた『人事制度』の設計と運用指導
  -職種別・役職別の評価制度と報酬制度の設計

クライアントの業種
製造業(機械・電機・精密機器・化学・食品・ITなど)、販売業、卸売業、銀行、外食業、不動産業、広告代理店業、人材派遣業、フィットネス業、学校、病院、その他サービス業等 多数

【著作物】
・「役員改革と業績向上のための役員の登用・評価・育成のすべて」(共著) 政経研究所
・「賃金制度改定の手引書 賃金統計のしおり」(共著) UFJ総合研究所