グローバル化と日本人

わたしは30年間総合商社で主として、海外でのインフラ事業のプロジェクト・マネジメントや、アジア諸国での工業団地開発を中心に担当してきた。

その経験をもとに2002年に経営コンサルタントとして独立し、日本企業の海外進出をはじめとする国際業務・経営の支援を行っている。同時に、2009年からベトナム、今年からはインドネシアの大学で『日本企業文化』という講座を開設し、日本の文化と日本企業のパラダイムを理解する若者を育成している。

このコラムでは、日本企業のグローバル化について、わたしが考えているポイントと課題について書いてみる。

1.グローバル化と日本企業

近年、国内市場の長期的な縮小やBRICs、韓国など新興国の台頭により、日本のグローバル化、国際化を題材とした記事や書籍が巷にあふれており、政府や自治体も中小企業の国際化支援の施策に注力している。
また、国際的に通用する人材(グローバル人材というらしいが)の育成についても、多くの機関・企業でセミナーなどのプログラムが実施されている。それ自体はたいへん良いことだと思うし、言語や労務、経理等いろいろなツールを学習するのは実際に必要であろう。

しかし、わたしはそれ以前の日本人として語るべきこと、日本のビジネスマンとしてのあり方、日本企業のマネジメントの強みと弱みなどを、われわれ自身がしっかりと認識しておくべきではないかと考えている。

わたしはコンサルティングする顧客の経営者には、駐在員を派遣する場合、その日本人社員の給与がなぜ現地採用の社員よりも20倍も高いのか、どこにそれだけの価値があるのか、彼もしくは彼女が赴任先の社員や部下に説明できるようにしてから送り出すようにといつも話している。

2.日本人と異文化

海外でビジネスをする場合に、日本とは異なるそれぞれの文化や慣習を知ることは大変重要である。少なくとも理解しようとする姿勢が大切である。それぞれの国や地域には固有の文化や慣習があり、日本の文化とは当然異なっている。その国に行ってビジネスや生活をする以上、その土地の文化、慣習は尊重せねばならない。究極のグローバリゼーションはすなわちローカリゼーションであるという、逆説的言辞も真を穿っているといえる。

特に宗教に関わる事項は、現代の日本の社会では宗教が社会生活に大きな影響を与えることが少ないこともあり、つい軽視しがちであるが、異文化理解の中では重要な事項である。
宗教に関わることはその宗教を信じている人にとっては、理屈ではなく、信仰すなわち信念である。つまり信じている人にとっては、変えることのできない大切なものである。したがって、妥協もしない。宗教というとイスラム過激派を連想する人が多いと思うが、世界中の大半の人たちは、何かの宗教を信じている。

たとえばアメリカには、人間は神によって神の姿に模してつくられたのであり、進化論などとんでもないと受け入れないアメリカ人がたくさんいる。また、ミャンマーやインドでは、少数派のイスラム教徒が、多数派の仏教徒やヒンズー教徒から攻撃されたりしている。

3.何が大切か

前記のとおり異文化を理解することは、たいせつなことである。また、日本人はそういう異文化を理解し、尊重しようという考え方も基本的にもっている。
また、有史以来日本人は、外から入ってくる文物を拒絶するのではなく、自分たちの生活に適合するように変化させながら、受け入れてきた歴史がある。また、日本の文化も古くからヨーロッパやアジアでも評価されていた。

一方で、われわれ日本人は、日本の文化や、コンテクストをベースにした微妙な日本人社会の距離感などは、国際的にはまれで特異なものであり、外国人には理解できないと決め込み過ぎていたのではないか。

少しさかのぼってみると、1970年代や80年代には、アメリカをはじめ各国の研究者が、いわゆる日本的慣行に基づく日本式経営や、トヨタ生産方式に代表される日本的生産管理を懸命に研究して取り入れていったのである。
90年代以降のいわゆる失われた10年が20年になり、日本人が自信を無くしていくと同時並行的に、世界では新自由主義経済、さらには金融資本主義が世界に蔓延し、弱肉強食の風潮が世界中に拡がり、普通の人にはとても暮らしにくい世界になってきているように感じられる。

今一度、日本の強さ、日本的マネジメントの強みを再認識し、自信を持って、世界に広めていくのが真の日本のグローバル化であり、われわれ日本のビジネスマンの使命ではないだろうか。


今後、機会があれば、ここに書いた日本の強さ、日本の使命について、もっと詳細にお伝えしていきたい。

大喜多 富美郎(オオキタ フミヤ) 学校法人産業能率大学 総合研究所 兼任講師

【学歴/職務経歴】
1972年 京都大学教育学部卒業
    丸紅株式会社入社
・開発建設本部配属後、アラビア語研修生としてシリア ダマスカス在住、イラク バグダード駐在建設工事事務所長
・ジャカルタ支店開発建設部長、ジャカルタ チブブール住宅開発会社出向取締役副社長(1996~1998年)を歴任
2002年 丸紅株式会社退社
    経営コンサルタントとして独立 現在に至る 【現 在】学校法人産業能率大学 総合研究所兼任講師

【研修活動領域】
・海外赴任前研修
・異文化の理解と適応研修(中東、東南アジア、中国)
・BRICsに続く新興国と日本の関わりセミナー
・海外におけるセキュリティ・リスク・マネジメント研修
・ベトナム市場進出セミナー
・ベトナムの大学に於いて「日本企業文化」講座

【資格】
・中小企業診断士

【著作物】
・「NEXT11がみるみるわかる本」共著(PHP研究所)
・「BRICsとNEXT11のすべて」共著(PHP研究所)