プロジェクトで実感した外国人との協働のポイント

一部上場企業同士の合併や本邦企業による海外企業の買収等、M&Aは珍しくなくなりました。
私は約15年前に外資が日本の商社を吸収合併した際のデューデリジェンスに携わり、親会社の経営管理の仕組みをそのまま適用する等の手法に驚いたものです。外資とのプロジェクトで最も印象的な体験は、欧州法人の日本子会社新設に際したERPパッケージ導入です。

それは、半年後のローンチまでに販売管理や在庫管理を含むERPパッケージを本稼動させる挑戦的なものでした。欧州側の上流工程の甘さにより適切に設計さ れておらず、日本側の「しっかり作りこみたい」と欧州側の「弥縫策で良いので早く進めたい」という意向の違いもあり、開始直後から停滞しました。
日本法人側のプロジェクトマネジャーは英語には強いものの問題対処能力が低く、後任として本国からT氏が赴任しました。T氏は期限厳守を最優先とし、各課題への対応策を論理的かつ目的にフォーカスした柔軟な発想で整理し、費用、操作性、保守性等、トレードオフとなる項目を定量的に評価して遅延を挽回しました。
対応策は各メンバーが案出して日々の進捗会議で説明しました。外国人メンバーは口頭で簡潔に説明しましたが、私はホワイトボードに図を描きつつの筆談となりました。T氏が何とか理解しようとしてくれたので意味は通じたものの、時間を要するので事前に文書を整えてコミュニケーション改善に務めました。

販売と在庫の業務には、本国から派遣されたM氏とペアで取組みました。停滞原因を尋ねられ、上流工程の不備に加えて一部手書きの文書の判読に手間取っている旨を伝えたところ、M氏が上流工程に携わっていたのみならず判読困難な字を書いた本人と分かり、やや気まずい雰囲気で協働を開始しました。ローンチ期日厳守のために、8:00から23:00まで作業する日々を重ねるうちに、M氏と昼食も夕食も共に過ごすようになりました。プライベートな会話により信頼感が強まるにつれて作業の品質とスピードも向上し、無事にローンチを迎えられました。

この経験で、外国人も人間性の本質に大差はなく、共通目標があれば何とか意思疎通できると体感しました。協働には普遍的ビジネス能力が肝要で、それまでは意識しなかった、論理ではなく情緒による検討やモノづくりの拘りが日本人の特徴と気付かされました。
当然と感じていることが必ずしも通じない局面は、本邦企業間のM&Aやジョイントベンチャーでも生じます。文化や価値観が異なる状況での協働の機会は増えると考えられ、普遍的ビジネス能力の強化等、多面的な対処が必要です。

プロフィール

橋本 佳士(ハシモト ヨシヒト)学校法人産業能率大学 総合研究所 兼任講師

【学歴/職務経歴】
1987年3月 慶應義塾大学 理工学部 計測工学科 卒業
1989年3月 慶應義塾大学大学院 理工学研究科計測工学専攻修了
1989年4月 帝人株式会社 入社
・エンジニアリング研究所システム機器開発室等にて研究開発活動に従事
1995年11月 株式会社博文館開業
1998年8月 朝日アーサーアンダーセン(現プライスウォーターハウスクーパース コンサルタント株式会社)入社
・情報システム、業務改革、および経営管理領域のコンサルティング、ソリューション営業等の職種で活躍
・プロジェクトマネジメント・組織マネジメントを経験
2007年12月 あずさ監査法人入所
・システム設計プロジェクト等で活躍
・プロジェクトマネジメントおよび組織マネジメントを経験
2010年12月 中小企業診断士として独立 現在に至る

【研修活動領域】
・「経営基盤強化研修」(公開型・新任部門長対象)
・「IFRSと企業経営研修」(公開型・管理部門長対象)
・「財務諸表の読み方研修」(自動車部品メーカー・役員対象)
・「財務分析研修」(大手製薬メーカー・次世代リーダー候補対象)

【資格】
・中小企業診断士
・第1種情報処理技術者