発展するベトナムから学ぶ(2)― ベトナムに進出する日本企業の人材確保 ―

ベトナムに進出する日本企業の人材確保

2016年の春と秋に、本学の関直治研究員と共にホーチミン市とハノイ市においてベトナム企業と日系企業の現地調査を行いました。今回は、その時の調査結果から得られた知見をもとに、日本企業のベトナムにおける人材確保について執筆したいと思います。

有望なベトナム市場

日本企業のベトナム進出は1990年以降、製造業を中心としたブームがありました。現在も、ベトナムは中国にかわる生産拠点として注目されています。政府統計によると2015年10月時点で、ベトナムは、日本企業の進出国・地域の中では7番目です。ASEANの中では、タイ、シンガポールに次いで3番目です。対前年8.7%の伸びで、日本企業は1587拠点あります。
昨今の特長は、生産拠点よりも市場としての魅力を意識した進出です。ハノイやホーチミンの街中を歩くと、日系の外食チェーンや小売チェーンが目に入ります。大規模小売業や教育サービス業の進出も見られます。ある日系の外食チェーンは、日本と変らない価格設定で商品を提供していますが、大繁盛しています。
欧米企業では、IT産業やリゾート産業への進出も目立ちます。ベトナム経済の発展に伴い国民所得が増え、経済のサービス化が進展し、今後は、幅広い分野で日本企業の進出が見込まれるでしょう。

日系企業の悩み

ベトナム人に日系企業は、就職先として人気があります。ベトナムでは日本という国に対する印象がとても良い上に、商品ブランドの知名度、賃金、教育機会などの観点から日系企業への就職希望者が多いのです。特に安定志向の強い学生にとっては、日系企業に長く勤めることにあこがれるようです。
しかし、希望の日系企業に就職したベトナム人でも、しばらくすると他社に転職してしまうことが多々あります。優秀なベトナム人には日系企業以外にも多くの選択肢があるので、特に給与や昇進機会の面から、日系企業は必ずしも魅力的ではないようです。日本人と似たような気質を持っているベトナム人であるだけに、日系企業にとっては非常に残念なことです。

ベトナムでの人材事情

現地で会った多くのベトナム人マネジャーは30代です。実力が伴っているかどうかは別として、管理職も不足しており、若くてもどんどん抜擢されています。競争心が旺盛な中国系や韓国系の企業は、日系企業で培った技術やスキルを持ったベトナム人を昇給や昇格を約束し引き抜いていきます。
人材を取り合うだけではなく、優秀な卒業生にねらいを定め、トップスクールにアプローチしている欧米企業もあります。将来の幹部候補や優秀な技術者を早期に囲い込むのです。米国は優秀な学生に奨学金制度で留学を支援し、彼らはそのまま米国企業に就職します。
一方で、全ての新卒者が人材不足の恩恵を受け、苦労せずに就職できているわけではありません。なぜなら、多くの企業は即戦力を求めているからです。日本のように新卒を一括採用し、企業が育成するという考え方も一般的ではありません。ですから、実践的なスキルを持たない新卒者は、職を得るために卒業後にインターンシップで経験を積む必要があります。

ブリッジ人材の可能性

厚生労働省の施策に「外国人技能実習制度」というのがあります。これは、海外の技能実習生が日本企業と雇用関係を結び、日本の産業や就業上の技能の修得・習熟を目的とするものです。もともとは、国際貢献の一環で取り組んでいますが、人材不足に悩む日本企業にとってもありがたい話です。15万人以上の技能実習生のうち、ベトナム人は2万人で製造現場を中心に昼夜技能の習得に努めています。
技能実習生の場合、彼らは3年で帰国することが義務付けられています。3年経って、彼らをそのまま帰してしまうのは実にもったいないことです。多くの技能実習生は高等教育を受けているわけではありませんが、日本で磨かれた技能を持っています。実際、そこに目をつけた日本企業の中には、帰国後彼らをベトナム拠点で採用する企業も出てきました。
日本での就業経験を持ったベトナム人は、二国間で活躍するブリッジ人材として期待されています。ブリッジ人材とは、現地と日本の間に入ってビジネスを円滑に進めることができる人材を指します。
日本企業で活躍しているベトナム人高度技術者も、今後ベトナムでその技術を活せる場が増えるはずです。そして、現在日本人出向者が担っている管理機能も果たすことになるでしょう。
これからは、日本で仕事をしているベトナム人を単に人手不足を補ってくれる存在としてみるべきではありません。彼らをベトナムでの活躍が見込めるブリッジ人材として育成するのです。これが、ベトナムの日系企業に持続的成長をもたらす、重要な人材開発戦略になりえるからです。