海外に生きる(3) ~異文化摩擦の解決法~

海外に生きる(3) ~異文化摩擦の解決法~

現在の日本は、多くの外国人が住む多文化社会になっています。私が担当している「異文化コミュニケーション」では、コミュニケーションを「自文化と他文化の間で行われるメッセージのやりとり」と捉え、特に異文化間の衝突や摩擦に関する過去の事例研究から、誤解を招いた失敗例や成功例を通して方策を考える授業を実施しています。

異文化摩擦の事例としては、以下の3つがあります。


  1. 日本在住外国人、帰国日本人、共文化コミュニケーションなど国内で起きる摩擦事例
  2. 海外留学、海外赴任、海外旅行など海外で起きる摩擦事例
  3. 国際交渉、国際協力、マスメディアとパーセプション・ギャップなど国際舞台で起きる摩擦事例


これらの実際の現場から声を集め、身近なところから感じていただくことが大切です。

私が長年担当している海外語学研修プログラムにおいても、参加大学生の行動から学べることがあります。カナダの引率業務で起きた異文化摩擦の事例を挙げてみましょう。

まずは、ホームステイ初日を終え、次の朝大学内で聞いた3人の女子学生の証言です。
この学生の話だけを聞き、皆さんは、どんな感想を持ったでしょうか。そのときの私は、学生にとって深刻な問題と捉え、さっそく、ホストファミリーからお話を聞いてみることにしました。
との回答が戻ってきました。

この事実を3人に伝えると、学生たちは、明るい表情になって、それぞれのファミリーの家へ帰って行きました。そして、次の日には、目をキラキラさせて、リビングルームでのホストファミリーとの過ごし方、バスでのさまざまな驚き体験、冷蔵庫の中にどんなものがあったかなどを話し終えて、「うちのファミリーは本当にいい人」と結論づけていました。たった1日いや半日で彼女たちの暗い気持ちは、解決してしまいました。

以上の事例から、2つの問題があったといえます。1つは、言葉で直接相手に聞かなかったことです。もう1つは、異文化間に価値観の違いがあるという事実に気づかなかったことです。

私は特別なことは何もしていません。単純に「どうしてかな」と聞いただけです。日本人は往々にして、言葉を発せずとも、わかってもらえる文化だと思っています。その上、英語会話力の問題以前に、勝手な推測、特にネガティブな解釈では、不安を倍増させるだけです。話さないとわからない文化だと気づくべきでした。「Why? (どうして)」の一言があれば、私が仲介する必要もありません。

次に、日本の文化を中心に考えるのではなく、異文化間つまり、2つの文化間の価値観の存在に気付くべきでした。月面着陸を果たしたアポロ11号のテレビ中継など日本における同時通訳の先駆的存在だった西山千さんが「理解と誤解」の中で「異文化間コミュニケーションでは、“誤解”という言葉はない。“二つの理解”があるだけだ。」と書かれています。“二つの理解”と考えれば、大学生の初日のような誤解はなくなるでしょう。 

毎回引率するたびに発見があり、私自身も学生の異文化体験を通して文化摩擦について考えさせられます。

前回のコラムでは、日本とアメリカの架け橋となった1人の日系弁護士村瀬二郎氏の功績について触れましたが、「初めての米国進出の際には日本人に対するどんな摩擦があったか。」過去の事例を通して学べることがたくさんあります。グローバル化が進むこれからの社会を鑑みると、特に国際交渉などの国際舞台で起きる摩擦を取り上げる際は、日本人に対する摩擦について過去の歴史に遡り、考えていく必要があるでしょう。