日本の外資系企業も十社十色(1)~外資系企業に垣間見る"お国柄"~

日本の外資系企業も十社十色(1)~外資系企業に垣間見る“お国柄”~

私は20年以上、企業の教育研修やコンサルティングに従事してきましたが、その中でグローバル企業の日本法人を支援する機会が多数ありました。このコラムでは、それらの支援を通じて筆者が感じたその企業独特の”お国柄”についてお伝えします。

第1回は、フランスとドイツを本国とする日本法人についてとりあげてみます。両社は(広い意味で)自動車関連企業であり、グローバルにブランド力があるという点では共通しているのですが

フランス系日本法人での例

あるときフランス系の日本法人からマーケティングをテーマとする教育研修の引き合いを受けました。そこで事前に電話やメールである程度ヒアリングした内容をもとに研修のプログラム案を作成し、打ち合わせをするべく訪問しました。打ち合わせの場には関係部門からフランス人と日本人のマネジャーと担当者が出席していました。
打ち合わせでは研修プログラム案について説明し、意見交換を行いながら着地点を詰めていくという流れで進んでいたのですが、途中でフランス人のマネジャーが「マーケティングのトレーニング内容を考える前に、我社のマーケティングの定義を考えてみよう!」と発言しました。このとき私を含めた出席者は“えっ、ここで…!?”という表情をしましたが、フランス人社員の何人かは“オォ、なるほど!”という反応をしていることが記憶に残っています。
その後、会議室にホワイトボードを持ち込んで議論が始まりましたが、打ち合わせは先方の業務都合から1時間半という時間枠でしたので、この時間内では結論に至らずプログラム案自体の具体的な検討ができませんでした。この状態に我々は“どうしようか…”と思っていましたが、フランス人のマネジャーは「今日は良い議論ができた!」という感想を残して会議室を後にしました。その後、窓口となっている日本人社員の方が「今日は申し訳ありませんでした。ビックリされたと思いますが、実は社内の会議などではよくあることなんです…」とおっしゃっていました。
そのようなわけで、「我社のマーケティングの定義」については社内で検討していただくようにお願いをして、その定義を踏まえて修正プログラム案を後日打ち合わせることにしました(最終的にはプログラム内容が決まり、無事研修を実施することができました)。

ドイツ系日本法人での例

もう一つのケースはドイツ系の日本法人をご支援したときの経験です。先ほどのフランス系日本法人とは対照的な感じを受けました。案件的にはコンサルティング営業をテーマにしたスキル認定と教育研修でしたが、グローバルにスキル体系や教育コンテンツとプログラムが出来上がっており、それを各国で極力忠実に行うことが基本的なスタンスとなっていました。
しかし現実には各国に固有の事情があり、もちろん日本も例外ではありません。例えばユーザーの特性や商習慣などが異なり、本国で作られた内容を言語的に翻訳するだけで実施することは難しい面が多々ありました。そのようなことから、グローバルの内容とローカライズが求められる内容との間で“着地点をどのようにするか?”という問題で我々もクライアントも悩むことが多くありました。また、各国でどのようなプログラムと教材内容で研修をしているかについての確認も行われるため、修正変更に際して説得材料やロジックを提示して交渉し、時に妥協もしながら実施に至りました。

これらの実例から見えたこと

この2つの経験を通じて、どちらも同業の外資系企業でありながら、スタンスや考え方が非常に対照的な印象を受けました。
フランス系企業では発散的思考を強く感じるとともに、“この先どのように内容を具体化していくか?”ということに戸惑いを感じましたが、冷静に考えてみると「自社なりのマーケティングの定義」という根本的なことを考えて共通認識を持つことは教育研修の場に限らず、さまざまな面で“確かに大切なことである”と捉えることができます。
またドイツ系企業では、“本国で精緻に検討した内容を共通のやり方で行うことと日本の現実とのギャップにどのように対応すべきか?”ということに悩みましたが、よく考えられた内容は世界共通で身につけることにより、全体で能力の底上げを図るということも“確かに大切なことである”と捉えることができます。
このように、それぞれの違いに当初は困惑したものの、大局的な意味づけを考えてみると理にかなっていることが見えてきます。

結局のところ、それぞれのお国柄を理解するとともに、それぞれの良さを活かしながらバランスポイントを見つけていくことが重要だということです。言い換えれば「グローバル」と「グローカル」を表裏一体で捉えて、そのバランスをどこに置くかがビジネスの要点なのだと思います。
このように結論づけると“いかにも日本人的な考え”と言われそうですが、そのような日本人的な発想も活かし方次第ではグローバルなビジネスでは役に立つ面があり、またそのような実例が世の中に数多くあると感じています。