日本の食を考える ~ローカル・シンキング グローバル・シンキング~【第3回】

日本の食を考える ~ローカル・シンキング グローバル・シンキング~ ③

シェフという生き様

今回で僕のコラムも最終回になります。今回のテーマは「シェフ」。前回「板前」について書きましたが、板前の中でも頭が板長。厨房を取り仕切る現場の長です。シェフはフランス語ですが、こちらも同じく厨房を取り仕切る欧州版の板長。今では和食における板長を海外ではシェフと呼びます。古来より政治や経済が国境を越えて関係を深める前に文化、特に食文化は渡来し根付き気がつけばその土地の食とミクスチャーしているものです。経済の世界に目を向ければ松下幸之助や小倉昌男など幾多の立身出世伝があり、時代のリーダーの意思とマネジメントフレームワークが両輪で噛み合ったところがその領域の市場を形成している。しかしこれは経済に限ったことではなく食の世界でも同様です。いや食の世界は個人の腕と辿って来た人生すなわち生き様がより大きく絡んでくるので大きな市場を形成したシェフの生き様には著名なビジネス書を複数冊読む以上の価値を我々に与えてくれるものがあります。
今回は日本で活躍し、世界中からファンがその味と生き様を訪ねて人が集まってくる二人のシェフ(料理人)をご紹介します。

食の都・庄内をつくったシェフ

山形は庄内地区に日本中いや世界中から食通を連日集めるレストランがあります。レストランの名前はアルケッチャーノ。庄内空港からも山形駅からも遠く車かバスしか到達手段がないにもかかわらず数か月先まで予約で満席のイタリアンレストラン。アルケッチャーノを切り盛りするのは奥田政行シェフ。奥田シェフのお父様が経営していたドライブインだった場所が今のアルケッチャーノです。

    ごはん1

    著者の自作料理①

    この店の特色、奥田シェフのこだわりは地元「庄内」にとことんこだわることにあります。奥田シェフのメニューは100種以上ありますが、ほぼオリジナル。独創性というよりかは食材の良さを引き出すために結果オリジナルになったと言った方が正解かもしれません。その食材は地産・庄内産、特に庄内在来野菜にこだわります。奥田シェフ自ら無農薬の畑を耕し、庄内在来の野菜を育てます。在来野菜というと、京野菜や加賀野菜が有名ですが、その土地に昔から根付く在来種でできたその土地の野菜のことです。その庄内野菜の美味しさを、自身の店からオリジナルメニューにのせて発信します。その相乗効果が徐々に山形中に、日本中に、そして世界中に伝播され、今では予約の取りにくい店アルケッチャーノが自然とできていきました。それはお店に留まらず、庄内という土地がイコール「美味しい場所」として社会に認知されることにまで発展しました。庄内空港に行かれたかたはお分かりかと思いますが、庄内空港のキャッチフレーズは「おいしい庄内空港」です。これは公募で決まった愛称です。全てとは言いませんが、奥田シェフとアルケッチャーノが「庄内=おいしい」の意味付けに影響を及ぼした功績は大きいのです。

    著者の自作料理②

    著者の自作料理②

    今、世の中は地域創生が叫ばれています。しかし結果が出ている地域は極僅かです。その中で、一人のシェフが地元野菜と真摯に向き合って広がった波が作り出した地域創生には多くの学びがあるはずです。ぜひ庄内に足を運んで、その波を直に感じてみてください。世界中に発信し、世界中から人を集める土地のおいしさに秘めた力を味わってみてください。

      刺身はナンバー1ジャパンフードブランドカウンターに立つてんぷら職人

      もう一人のシェフはてんぷら近藤の近藤文夫さん。近藤さんはシェフというより職人という名称の方がぴったりくる人です。てんぷら近藤もアルケッチャーノ同様に予約が取りにくい店。そして、日本中、世界中から人を集める店です。
      池波正太郎が著書「男の流儀」に「てんぷら屋に行くときは腹をすかして行って、親の敵にでも会ったように揚げるそばからかぶりつくようにして食べていかなきゃ、てんぷら屋のおやじは喜ばないんだよ」とてんぷらを食べる流儀について書いています。池波正太郎がてんぷらと言うとまさしくてんぷら近藤を指します。池波正太郎は近藤職人が自店を持つ前、山の上ホテルのてんぷら店での雇われ時代から通っており、池波家の毎年のおせち料理は近藤職人の池波正太郎への感謝と真心で作られ、自らが池波邸へ大晦日に届けることは有名な話です。
      近藤職人は、てんぷらを単に揚げるということだけではなく、揚げた後の余熱を考えてお客さまにてんぷらをお出しするということから「てんぷらは現代の蒸し物だ。」という表現を使います。余熱を考えるということはお客さまのもとへお出しするてんぷらの時間、その瞬間にこだわることだと思われます。それは鮮度へのこだわりにも見られます。揚げる食材は下ごしらえなしで、お客さまからオーダーが入りお客さまの目の前で下ごしらえを始めていきます。その様は鮮度にとことんこだわる職人魂の現れと言うしかありません。鮮度へのこだわりは素材のこだわりへ通じます。北海道から沖縄まで、季節季節の野菜を自らの目と舌で確かめる姿が度々目撃されます。また毎朝築地に自ら足を運び当日の魚を吟味する姿は築地のあたりまえの朝の風景です。素材にこだわり、鮮度にこだわる。それはカウンターの目の前にいるお客さまのために。まさに職人の姿です。その姿とてんぷらのおいしさを求めててんぷら近藤へ訪れる世界中の人とカウンター越しに繋がる様子は、まさに日本の食文化が世界と繋がる光景です。ぜひその光景と近藤職人の技とこれぞてんぷらというてんぷらを食してみてください。いろいろなことが感じられるはずです。お店は東京・銀座にあります。

      僕のコラムは今回で終了となりますが、Think Localが実はAct Globalになる、結びつく。日本の食から考えてみました。食材や地域やお客さまへのこだわりが日本の食の「おいしい」をつくり、世界と繋がる。日本は本当におもしろくおいしい国です。3回と短いお付き合いではありましたが、お読みいただきました皆様へ感謝の意を込めてお礼申し上げます。