日本の知財立国とは~音楽で外貨を稼いでこられるか~(1)

日本の知財立国とは~音楽で外貨を稼いでこられるか~(1)

私が音楽産業に従事しだしたのは、1986年に(株)エイプリル・ミュージックの出版部(現(株)ソニー・ミュージックパブリッシング)に中途採用されたときからです。それ以来ソニー・ミュージックグループで8年、その後エイベックスグループで20年と音楽産業に携わり、現在も産業能率大学で教員を務めながら、いろいろな形で音楽産業におけるプロジェクトに参加しております。

この30年間、音楽産業の中でも、主に著作権関連の業務と国際戦略業務に従事してきました。そのために、日本の音楽で外貨を稼いでくること(つまり日本の音楽が世界市場で受け入れられること)がライフワークのようになってしまい、現在でも若いクリエーターの作った音楽を集めて海外に送り出し、いくばくかでもマネタイズするシステムを作り出しています。まだまだ『実験的』といったほうが良いレベルでの外貨稼ぎですが、近い将来には日本の輸出産業の一端を担うようなレベルになることを夢見ています。
1986年にエイプリル・ミュージックに入社する前、私は7年ほどアメリカに留学しておりました。音楽ビジネスについて勉強していたのですが、実際にアメリカで体感する音楽はとても豊かでカッコよく、当時日本で流行していた歌謡曲などは恥ずかしくてアメリカ人の友人には聴かせられませんでした。(実際には音楽は嗜好品なので、良い音楽、悪い音楽、恥ずかしい音楽などというジャンルわけは成立しません。ただ当時の私の嗜好がアメリカの音楽に合っていただけでした。これに気づくには相当な歳月がかかりましたが。)
そのようなわけで、これから数回に分けて、日本の音楽を世界に紹介しようとチャレンジしてきた経験をお話しさせていただこうと考えているのですが、そんな中、とんでもないニュースが舞い込んできました。ピコ太郎なる日本人が歌う『PPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)』なる曲(というか、ビデオ付のコミックソング)が動画配信サイト『YouTube』を介して世界中で大ヒットしてしまっているというニュースです。たった45秒の、妙なダンス、妙な衣装、妙な英語、妙な曲ですが、なぜか世界中で受けています。日本の音楽産業が長年、正面から世界進出を試みてきて結果を出せなかったことが、ひょんなことから実現できてしまうのは不思議なものです。

とはいえ、このビデオでどれだけのマネタイズができたのか(つまり外貨をいくら稼いでいるのか)は今後のレポートを待たなくてはならないようです。しかも、残念ながら日本語で歌っているとは言えないので、大げさに言うと(日本文化としての)日本音楽で外貨を稼ぐ、というコンセプトにはいささか外れる気もしますね。