現地従業員に対する「理念・行動指針」浸透のポイント(6)

業務上の問題解決活動を通して理念・行動指針を理解させる~株式会社オークラ ニッコー ホテルマネジメント様の取り組みを事例として~

前回のコラムに引き続き、株式会社オークラ ニッコー ホテルマネジメント様との協働プロジェクトでの経験を踏まえ、現地従業員に対して、自社が大切にする理念や行動指針を理解・実践させていく上で有用と考えられるポイントについて述べてみたいと思います。

今回は6つ目のポイントとして、「スタッフが業務上の問題を発見し、自ら解決する取り組みを通して、理念・行動指針への理解を深めさせるアプローチ」についてお伝えします。

これまでのコラムでもご紹介したように、株式会社オークラ ニッコー ホテルマネジメント様は、
ホテルにおけるサービス提供・業務遂行において、常に立ち戻るべき指針としてOrigin8という8つの行動指針を設定しています。

これは、スタッフにとっては、ホテル現場におけるさまざまな場面においてどのように対応したらよいか迷った際に判断や行動の拠り所となるほか、スタッフが現場の業務上のさまざまな問題を発見するためのチェック項目にもなります。

スタッフがこの8つの視点を意識して仕事をすることで、例えば、「④連携」の視点から、ベルボーイとフロントスタッフの業務連携がうまくいっているかをチェックしたり、「⑤情報」の視点からお客様に関する情報がきちんと収集・管理され、適切な接客・サービスへとつながっているかを確認したりすることが可能となります。
図1:問題発見のための視点としてのOrigin8
同社が運営するチェーンホテルでは、スタッフが、この8つの視点を踏まえ、業務上の問題を発見し、自分たちで解決策を考え、実行する取り組み(サークル活動)が日常的に続けられており、2015年のサークル活動件数は国内ホテルで709 件、海外ホテルで249 件と、年間約1,000件近くに上ります。
図2:サークル活動とは
同社では、前回のコラムで紹介した、スタッフを褒める仕組みである「Good job!レビュー制度・MVP表彰制度」と、この「サークル活動」(ホテル現場での問題発見・解決の取り組み)の2つの仕組みを軸に、同社が大切にする「サービス理念・行動指針」の意味をスタッフに理解させる取り組みを行っています。

このサークル活動は、図2に記載したとおり、一人ではなく、「チームで知恵を出し合いながら」問題の解決策を検討していくものです。
したがって、今から10数年前にこの活動をスタートさせた当初、プロジェクトチームは、海外エリアのホテルでは日本的な改善活動は定着しないのではないかと危惧していました。
海外では、問題を発見したり、解決したりするのは「マネジメント層」の仕事・役割であり、現場のスタッフはただマネジメント層から言われたことをこなせばよいとの意識が強く、現場のスタッフが日々の業務を振り返り、主体的に改善すべき問題を発見する習慣がないと考えたためです。

実際、この活動をスタートさせた当初は、上記の危惧が現実となり、海外エリアのホテルではうまく活動が進まなかったことがありました。リーダーを集めて研修会を開催したけれど、その後の活動が展開されないといったことも多々ありました。

しかし、プロジェクトチームでは、

・ホテル現場のスタッフを束ねるミドルマネジャークラスのスタッフを「サークル活動リーダー」に任命し、彼らに問題解決やファシリテーションスキルなどについて3日間の専門的なトレーニングを受講させる(専門的な研修への参加は、ローカルスタッフにとって「選ばれた」という“特別感”を感じさせるものでもあります)
・国内外の各チェーンホテルで実際に行われた問題解決事例や、サークル活動によって業務上の問題解決がなされたことで、CSアンケートデータの数値が改善された事例をリーダーたちにタイムリーに紹介する
・「サークル活動リーダー」として優れた成果を出した者には、チェーン全体で行われるアワード
で表彰する(日本で行われるチェーン全体の総支配人会議での表彰)などの魅力的なインセン
ティブを付与する

などの取り組みを粘り強く継続的に行い、近年では、各ホテルのリーダークラスのスタッフのモチベーションも高まり、以前に比べ、質の高い問題解決事例が創出されるようになりました。
図3:海外ホテルでのリーダー研修の風景(Origin8マスター研修)
一例をご紹介しましょう。
ベトナムのあるホテルのハウスキーピング部門では、スタッフの英語による電話対応力を向上さ
せるため、現状のレビューを行った上で、英語での電話対応チャート、ハウスキーピングのオペレーションや施設・備品の英語表現を掲載したハンドブック、ホテル情報(各施設の営業時間、ホテルの広告や取り組み等に関する情報)をまとめた資料を作成し、それらを活用した研修と理解度確認テストを実施するといったサークル活動が行われ、ハウスキーピングサービスに対するお客様のGood コメントを増加させる成果をあげました。
図4:ベトナムのホテルでのサークル活動の取り組み
また、中国のあるホテルでは、外部委託をしているリムジンサービスの質の向上を図るため、お客様に提供するサービスエチケットの標準化や、リムジン車内の清掃・整理整頓基準の設定、目的地までの道順を書き込んだマップの作成とドライバーへの事前教育などの活動に取り組み、リムジンサービスを利用したお客様の満足度を向上させました。
図5:リムジンサービスの質の向上に向けた取り組み(中国のホテル)
実は、同社が掲げる「Origin8」という行動指針のネーミングには、ホテルサービスに携わる全てのスタッフが意識すべき行動の源泉=「Origin」という意味のほか、8つの視点を活用してスタッフが問題解決に向けた施策のアイデアを「創造する=Originate」(Origin8という言葉を何回も発音すると、Originateという音にリエゾンします)という意味も込められています。

同社とのプロジェクト活動はもう10年以上に及びますが、当初難しいと考えられていた海外ホテルでの改善活動が定着し、業務オペレーションをより効率的・効果的にするためのさまざまな施策が現場のスタッフによってOriginateされ、その質が向上していく様子を見ると、たとえ海外であってもやり方次第で、日本的な改善のマインドをローカルスタッフに理解させることができるのだと感じます。

サービス理念・行動指針の浸透活動に終わりはありません。
プロジェクトチームは、今後もローカルスタッフにとってフレンドリーな方法を模索・検討しながら、同社が大切にする行動指針「Origin8」を理解・定着させていく活動を進めていく予定です。その過程でより効果的な方法が発見できたなら、別の機会にご紹介したいと思います。