外国人スタッフと働く-職場で押さえておきたい気配りポイント- 【第1回】

増加する外国人労働者

新卒採用で外国人採用枠を設ける企業や社内公用語を英語にする企業など、近年日本のオフィスは多国籍化が進んでいます。そして、国内で働く多くの日本人が、実感として「外国人スタッフが増えてきた」と感じていることでしょう。
事実、厚生労働省が発表している「外国人雇用状況報告」のデータでも、外国人労働者が増加していることは明らかです。
既に製造業など一部の業種では、外国人の労働力がなくてはならない存在になっているほか、経済連携協定(EPA)による労働力の受け入れ、少子化による労働力の減少などもあり、今後も外国人労働者の増加が予想されます。
ここでは、「外国人スタッフと働く-職場で押さえておきたい気配りポイント-」をご紹介します。

その1 まずは基本「日本を知り外国を知る」ことが大切

社内の外国人スタッフとのコミュニケーションを図るうえで、「異文化理解」は欠かせない条件のひとつです。
「異文化理解」とは、「相手の文化を理解すること」と考える方が多いようですが、それだけではなく「相手の文化の違いを理解すること」です。そこで、日本を知り、外国を知り、日本と外国の違いを知ることからはじめましょう。

まずは、外国人スタッフの出身国の文化と日本の文化を調べてみましょう。
インターネットを使えば官公庁サイトから口コミ情報まで、異文化に関する情報は、簡単に入手できます。
ただし、ひとつ注意したいのは、情報が正しくない場合もあるということです。さまざまな種類の情報を得ることができる反面、どの情報が正しいか判断することも難しくなっています。
例えば、「欧米人は初対面で必ず両手で握手をする」と口コミ情報があったとして、大勢の日本人スタッフから両手で握手を受けた外国人スタッフが戸惑う姿を想像してみてください。
調べた知識だけでいきなり実践するのは勇み足です。もう一歩「異文化理解」を進めてみましょう。

次に、調べた情報について外国人スタッフに直接聞いてみましょう。
国の情報でも地域によって文化が異なることがあります。情報を入手して納得するのではなく、入手した情報をネタに、正しい情報かどうか外国人スタッフと話をすることもコミュニケーションの第一歩ではないでしょうか。
相手の文化との違いを把握しましょう。

また、コミュニケーションの際には、話のキャッチボールを心がけることが大切です。やってはいけないことは、質問攻め。相手の文化を理解しようとする思いが勝り、いくら興味があって聞きたいことがたくさんあったとしても一方的な質問では、正しいコミュニケーションとはいえません。
外国人スタッフも戸惑ってしまいます。まずは、聞き方のキーワードは、「日本では○○の習慣があるのですが、○○さんの国ではどうですか」と、日本の情報を提供し、相手の情報を得る。この方法がコミュニケーションをよりスムーズにする得策かと思われます。
コミュニケーションの中から相手の文化と自分の文化との違いを知ることを心がけましょう。

そのためにも、先に述べたように、異文化理解の基本は、以下の3つのステップです。(1)自分の国の文化について知ること、(2)相手の文化を知ること。(3)そして、自分の文化と相手の国の文化の違いを知ることが大切です。分からないことは直接聞いてみる。そのうえで、文化の違いを伝え、聞いてみましょう。

その2 仕事のコミュニケーションは世界基準で考える

「言われる前にやれ」と育った日本のビジネスパーソンですが、そのコミュニケーションの仕方が外国人にも通用すると考えている方も多いのではないでしょうか。
ここでは、外国人スタッフとの仕事のコミュニケーションで注意したいポイントをご紹介します。

まずは「はっきり言う」ことが大切です。自己主張をあまりしない日本人同士であれば、「言わなくても分かってもらえる」ケースもあります。
しかし、それが通用するのは日本人の間だけでしょう。世界基準は、「言わないと分かってもらえない」のです。外国人スタッフとコミュニケーションをとる場合は、はっきり言わなければ伝わらないと考えましょう。

次に、「自分を卑下する表現に注意する」ことです。日本人は、謙遜して自分を卑下する表現を使いがちです。その表現をそのまま相手の国の言葉に置き換えて伝えたとしても「謙遜」は通じず、誤解を生じかねません。
例えば、外国人スタッフに仕事の業績をほめられて「それほどでもありません」と答えれば、相手はどう受け止めるでしょうか。

同様に、家族のことを話すときの否定的な表現にも注意が必要です。入試に合格した子供のことを「優秀ですね」とほめられたとき、日本人ならば、「そんなことないですよ」と返してしまいがちです。しかし外国人スタッフにとっては、そうした日本人スタッフの対応が理解できません。
なぜならば欧米では、家族のことを誇りに思い、ほめる表現を使います。「優秀ですね」に対しては、「うちの子は、ほんとうに頑張って勉強したんですよ」と返ってくるでしょう。

そして、本当に誤解されることが多いのが、日本人の「笑み」の表現です。
失敗や間違ったとき心から「すみません」と言いながら、笑みを浮かべてしまう日本人。
これは他の国にあまりない日本独特の表現方法です。「なぜこんなときに笑顔なのか」と外国人スタッフを不快にさせないように真摯に受け取りましょう。

まずは、素直な気持ちをはっきりと表現すること。そして、表現する内容を考えて、笑顔の使い方を間違えないようにすること。
外国人スタッフとのスムーズなコミュニケーションをこころがけましょう。

産業能率大学 経営学部 准教授 池田 るり子