グローバル人材育成のポイント~データから読み取る異文化適応条件~【第2回】

第2回では、前回ご紹介した重回帰分析とは違った手法を用いてみたいと思います。

重回帰分析によって、「仕事適応」に対して最も関係がある特性因子は「3仕事への自信」であり、次いで「2異文化への関心」である、といったように、全体として特性因子と適応指標との関係を把握することはできました。
しかし、「3仕事への自信」と「仕事適応」の関係が強いと分かっても、それでは「3仕事への自信」が何点以上ならばよいのか、といった具体的な内容については重回帰分析では分かりません。

そこで、今回は「決定木(けっていぎ)」というツールを用いて、適応をする条件について検討することにしました。決定木とは、基準となる変数(今回は仕事適応)によって分類されたグループをうまく説明できるような条件は何かを算出してくれる手法です。決定木を使った分析手法について簡単にご説明しますが、詳細についてはこのコラムでは扱いません。データマイニング手法を解説した書籍、文献などをご参照ください。

決定木を使った例

決定木とはその名の通り、決定するためのツリー構造のグラフです。決定のためのツールなので、購買行動の分析でよく使われる手法ですが、分類や弁別を行うためにも使われます。
ここでは、簡単な例を用いて、決定木分析の考え方をご紹介します。

今、ある喫茶店では夏に向けてアイスクリームを売り出していこうと考えています。最近数日間の注文を整理してみたところ以下のようになります。これはあくまでも決定木分析の説明のための架空データです。
天気で並べたこの表では、アイスクリーム注文についてあまりはっきりとしたことは分かりません。

そこで、気温の順に並び替えてみます。
この表ではアイスクリームの注文については気温が高すぎないほうが注文がありそうだという傾向が見て取れます。しかし、同じ気温24度でも湿度の違いで注文があったりなかったりしているようです。
この表はアイスクリームの注文があったかなかったかを、天気、気温、湿度の3つの要因10個のデータでみているだけなので、並び替えているだけで傾向をつかむことができます。
しかし、要因数やデータ数が多くなった場合に並び替えでは対応できなくなります。これを自動的に行って、分類や弁別の条件を作成してくれる手法が決定木です。

この10件のデータで決定木分析を行うと、前出の決定木の例(アイスクリームの注文)のような図を作ることができます。

この図は上から下へと見ていきます。最初は気温が31度以上か、30度以下かで分岐します。
31度以上の場合で、天気が晴だった場合は、アイスクリームの注文がありませんでした(データ数2件)。雨だった場合は注文がありました(データ数1件)。

気温が30度以下だった場合で、さらに26度以上であった場合、つまり気温が26~30度だった場合はアイスクリームの注文がありました(データ数4件)。
気温が25度以下の場合は、湿度が45%以下ならば注文がありました(データ数1件)。85%以上の場合は注文がありませんでした(データ数2件)。

以上の結果をまとめると、

アイスクリームの注文は、
 気温が26~30度の範囲で、あまり暑すぎないことが重要
 気温が31度以上と暑い場合は、天候が悪いほうが注文がある
 気温が25度以下と低めのときは、湿度も低いほうが注文がある

となります。
この結果は、例えば、31度以上のときはかき氷を、26~30度のときはアイスクリームをお客様に薦めることで売上アップを目指すという活動につながるものです。

以上、決定木分析の考え方をご紹介いたしました。要するに分類できる条件を探索してくれる手法です。考え方は割と理解しやすいものだと思われますが、いかがでしょうか。

次にこの決定木を使って、赴任先で成果を出す可能性の高い人の特性を探ってみたいと思います。

まず、分かりやすくするために、「仕事適応」を今回のデータの平均で2つに分けました。平均以上ならば適応している、平均よりも低い場合は適応していないとします。

この後、決定木分析を行い、図表4の結果を得ました。
この図は、上から下に見ていきます。

最初の枝分かれは「仕事への自信」です。「仕事への自信」が2.86(最小値は1.00~最大値4.00です 以下全ての因子で同様です)以上ならば、「仕事適応」が平均以上(図中では〇で表示)、つまり適応した、赴任先で成果を上げたということになります。
この分析は今回の調査データのうち、海外赴任経験が1年以上の人1,030人を対象としていますが、その内、「仕事への自信」が2.86以上、「仕事適応」が平均以上の人が410人いました。

図の左側に行くと、「仕事への自信」が2.86よりも低い場合になります。図を一段階下ってみると、また「仕事への自信」が出てきます。ここで左に行くと「仕事への自信」が2.14よりも低い場合となり「仕事適応」が平均を下回っています(図中では×で表示)。
つまり「仕事への自信」が2.14よりも低く、仕事適応が平均未満の人は152人いたことになります。
図を右に行って「仕事への自信」が2.14以上、つまり「仕事への自信」が2.14~2.86の間であれば、次に「異文化への関心」が焦点になります。「異文化への関心」が2.93未満ならば、残念ながら「仕事適応」は平均未満です。

「異文化への関心」が2.93以上ならば、次に「達成意欲」が焦点になります。「達成意欲」が2.44以上ならば「仕事適応」が平均以上となり、2.44よりも低ければ「仕事適応」は平均未満となります。
重回帰分析では統計的に意味を持たなかった「達成意欲」ですが、決定木分析では登場してきました。
手法を変えたことで違う因子が意味を持つことも十分ありえることなので、複数の分析手法を試してみることが重要です。

以上をまとめますと、次のように仕事適応、赴任先で成果を上げる可能性の高い人の条件を導くことができます。
1.「仕事への自信」が2.86以上であること
2.「仕事への自信」が2.14~2.86ならば、「異文化への関心」が2.93以上でかつ「達成意欲」が2.44以上であること
今回のデータからは、この2つの条件のどちらかを満たしていれば、海外赴任して成果を上げる可能性が高い結果となりました。ちなみに適応しない条件も記述することができますが、今回は省略しました。

前述の重回帰分析の結果でも、「仕事適応」と最も関係のある因子は「仕事への自信」でした。決定木分析でも同様の結果となっています。

「仕事への自信」という因子は、これまでの仕事経験から仕事に対する自信を持っている度合いのことです。言い換えれば経験や専門性の裏付けのある自信を持っているということです。
つまり、仕事をするために海外に行く以上、担当するであろう業務に対して、これまでの経験や知識を含めた専門性と自信を持っていることが最大の条件になると解釈できます。

もちろん、これらの結果は、あくまでもインターネット調査による約1,000人のデータから、自己評価による指標を用いた分析であり、過度に一般化することは厳に慎みたいと思います。 しかしながら、仕事ができる人たちにどうやって海外での仕事に意欲を持ってもらうかを考えることが、より重要ではないかという仮説は言えそうです。

産業能率大学 総合研究所 経営管理研究所 組織測定研究センター 所属
グローバルマネジメント研究所 所員
堀内 勝夫