グローバル教養力を身につける ~英語で茶道体験(前編)~

全日本空輸株式会社様 オープンセミナーに密着取材

“グローバル教養力を身につける”2本目のコンテンツは、本学が講師派遣事業として教育サービスを提供させていただいております、全日本空輸株式会社様のオープンセミナーの一つ、『英語で茶道体験』をご紹介します。
前編では、プログラム内容や研修風景を中心に、後編では、セミナーの企画・運営を担当されているANA人財大学 大西愛子様、上野達也様のインタビューを掲載します。

ANAグループ全社員対象のオープンセミナー

今回ご紹介するセミナーは、ANAグループの人財育成機関であるANA人財大学が企画・運営する自己啓発プログラムの一つです。

このセミナーはANAグループ全社員を対象とし、受講にあたっては、「公休・有休での参加」「受講費は原則自己負担」としています。にもかかわらず、ANA人財大学の50のセミナーには毎年多くの申し込みがあり、その中でもリベラルアーツ(教養力)のカテゴリーで紹介されている『英語で茶道体験』は、特に人気のセミナーとなっています。

参加者もグローバル?!

『英語で茶道体験』は今回で4回目の開催となりますが、毎回応募者が多数のため、抽選をして受講者を選定しています。
運よく抽選に当たった社員は業務の都合を付けて参加されるわけですが、香港や韓国といったアジア圏からの参加者もいらっしゃいます。

また、参加者の9割は女性となっていますが、「お茶に興味がある」あるいは「海外赴任の可能性がある」といった男性の参加者もおり、研修会場はグローバルに富んだ雰囲気となっています。

非日常の演出と体験型プログラム

では、早速プログラムの流れを見てまいりましょう。
基本骨子としては、(1)茶道についての基礎知識 (2)お点前デモンストレーションの見学 (3)茶道体験の3部構成となっています。

(1)茶道についての基礎知識

セミナーを担当する関真澄(せき・ますみ)講師は、裏千家教師であり、サンフランシスコ州立大学卒業後、語学学校教師もしており、茶道においても英会話能力においても第一線で活躍しているプロフェッショナルです。

オリエンテーションでセミナーの目的が確認されたあとは、茶道の精神や歴史、お道具類、お茶席でのマナーなどについて英語で講義を行います。
また、海外における茶道や日本文化は、どのように捉えられているかといった講師の体験や経験値に基づく談話は非常に興味深い内容です。

エピソードを一つご紹介しましょう。

バージニアを訪れたときのことです。「アメリカの子どもたちに、日本の茶道を紹介してほしい」と図書館長の友人から頼まれた関講師は、机を重ねて『にじり口』をつくり、図書館中の植木鉢を全部集めて『路地』に見立て、白い紙に絵具で『○』(注)を書いて『掛軸』にするなどして、茶室を演出しました。
子どもたちは大喜びし、即席にじり口をくぐって入り、目をキラキラさせ、まだ見ぬ日本という国の話を聞き、お茶とお菓子をいただいたそうです。

既成概念にとらわれることなく、場所や道具が揃っていなくても、工夫一つで、誰でも日本文化を発信できることを強調されました。

また、自分自身や自国を知り、心から伝えようと努力することで、本当のコミュニケーションが生まれることなど、英語が話せるだけでなく、真のコミュニケーションができるグローバル人になってほしいとお話しされました。
(注)『○』は、禅語の一つで「円相(えんそう)」と読みます。円は丸くて、角がなく、終わりも始まりもない形で、禅宗では最高の真理・悟りをあらわす究極の形とされています。

熱のこもった英語のレクチャーに、最初は参加者も戸惑いがちですが、次第に話の内容に引き込まれていきます。
ほっと一息つきたい頃合に、お菓子とお茶が提供され、参加者の顔もほころびます。
ここで、セミナーの進行を支援しているスタッフの自己紹介と合わせて、自分が今日着てきた着物の説明とお茶をはじめたきっかけを受講者にお伝えする場面もありました。
スタッフの中でもひときわ注目されたのがアメリカのジョージア州アトランタ出身のCynthia Shimura.(シンシア シムラさん)(写真左から2人目)です。
シンシアさんは、2003年に日本にやってきて、現在は英語教師をしており、2児の母でもあります。
以前から日本のお茶に興味を持ち、数年前、裏千家の教室の前を通りかかったときに、思い切って門を叩いたそうです。

(2)お点前デモンストレーションの見学

休憩を挟んだ後、受講者はラウンジに移動して、お点前のデモンストレーションを見学します。
お茶席用に装飾が施されたラウンジで、関講師の解説を聞きながら、正客、次客の英語による問答を見て、お茶席でのイメージを膨らませます。

(3)茶道体験

再び教室にもどり、いよいよセミナーの山場、茶道体験がスタートします。

参加者のほとんどが初めてお茶を点てる方ですので、スタッフが丁寧にやり方を指南し、ぎこちない手つきながらもお菓子、お茶のいただき方、お茶の点て方を一通りやっていただきます。
研修の終盤は、各人がセミナーの振り返りを行い、全体で感想をシェアします。
主な感想をいくつかご紹介しましょう。

「自国の文化なのに知らないことが多く、また、英語での説明方法が分かってよかったです。」

「体験してみたことで、外国人から質問されたときに、ドギマギしないで答えられそうです。」

「自分の国のお茶文化との比較ができて勉強になりました(中国人・フィリピン人参加者)。」

半日という短い時間ですが、英語での講義や茶道といった初めての体験を参加者同士で共有し合っただけあり、別れを惜しむ受講者も多くいました。
受講者の皆さま、大変おつかれさまでした。

次回は『英語で茶道体験』(後編)をお届けします。

2015年4月8日
インタビュアー
グローバルマネジメント研究所員
高橋 輝子