グローバル教養力を身につける ~英語で日本の文化を発信することの重要性~

『英語で語る日本』担当講師 斎藤勇二 教授にインタビュー

グローバル人材の要件の一つに“教養力(リベラルアーツ)”があげられます。
教養力といっても「物事を知っている」といった単なる知識の延長線ではなく、その知識や経験に裏付けられた自分自身の“ものの見方や考え方”を持ち“行動できる”人材がグローバルの環境下ではより一層必要とされています。

とはいえ、“教養”といわれるその領域は文化、歴史、哲学、国際社会など幅広く、日々忙しいビジネスパーソンにとって身に付けることはなかなか至難の業ではないでしょうか。 本コラムでは、産業能率大学がご提供させていただいている社会人向けのカリキュラムの中から教養力をテーマに2つのコンテンツをピックアップしてご紹介したいと思います。

まず初回は、自由が丘産能短期大学 通信教育課程 国際コミュニケーションコースにおける『英語で語る日本』を担当している斎藤勇二 教授に授業の特徴などをインタビューしました。

高橋
2年前に国際コミュニケーションコースが開設されて、コースの1科目に『英語で語る日本』が組み込まれていますが、まずは本コース開設の目的を教えてください。

斎藤
通信教育課程で学ばれる学生さん達は、基本的に社会人経験のある方々です。仕事をしていたり、家庭の主婦であったり、あるいはシニア世代で第二の人生を歩まれている方であったり、置かれている環境もさまざまです。こうした人たちにとってもグローバル化はとても身近なテーマになっています。

今年は円安の影響もあり訪日外国人は過去最多を更新していますし、2020年の東京オリンピックに向けて政府も日本人の英語力向上とグローバル人材の育成を重要テーマとして掲げています。

マネジメント教育を得意とする本学においてもグローバルで活躍できる国際人育成の必要性を以前から感じておりましたので、国際コミュニケーションコースの開設は必然だったといえます。
本コースは、英語力を身につけるだけでなく、マネジメントやビジネスの知識、世界と日本に関する教養についても学べることが特徴です。
短大通信教育課程の中で一番の人気コースになっていることからも、本コースへのニーズの高さが伺えます。

高橋
次に『英語で語る日本』を科目として選定した理由について教えてください。

斎藤
外国人にとって日本人への興味関心は、日本の歴史、文化、生活習慣など、日本の中で生きている私たち自身が発する生の声を聞くことです。

日本のポップカルチャーが注目されて久しいですが、まずは私たち自身が日本の文化や諸事情について知る必要があります。その上で、外国人に対して少しでも積極的な姿勢になって語りかけることができれば、コミュニケーションの楽しさ、奥深さに気づくはずです。
『英語で語る日本』もこうした問題意識から科目として設定しています。

『英語で語る日本』学習目標

(1)日本の歴史・文化・習慣などに関する、基礎的な知識を身につけて説明できる。
(2)日本の物事を説明している英語の語彙と文を理解することができる。
(3)日本と日本人の特質を理解し、それを諸外国と比較して説明できる。

高橋
『英語で語る日本』で使用しているテキストは、英語力のない私でも面白く読める書籍ですね。

斎藤
そうなんです(笑)。
本科目で使用しているテキスト『新・英語で語る 日本事情』は、日本の歴史、文化、習慣などを幅広く学べる上、英語と和訳があるので安心して読み進めることができます。

英語力を高めたい人にとっては、歌舞伎、浮世絵、鎖国、花粉症、梅雨、居酒屋、畳、年賀状・・・こうした日本の物事を説明している英語の語彙を広げることができるのも魅力です。

また、参考文献としてあげている、駐日大使だった東洋史研究者のライスシャワーさんの名著『ザ・ジャパニーズ・トゥディ』も、ぜひ読んでほしいですね。

本科目は、英語力だけを問うている訳ではなく、日本の文化を学ぶことに力点を置いていますので、通信教育の学生にはとても向いていると思います。

高橋
通信教育課程では、リポートの提出と試験のみで科目履修するか、スクーリング(面接授業)にするかを選択できますね。割合としてはどのくらいですか。

斎藤
だいたい 8:2 くらいです。
つまり2割の人がスクーリングを選択しています。

高橋
8月に3日間のスクーリングを行ったそうですが、授業はどのように進められているのですか。

斎藤
事前学習として、10のキーワードについて説明している英文を和訳してきてもらいます。事前課題については学生ごとバラツキがありますので、授業のはじめに、グループに分かれて再度和訳する作業をしてもらいます。

私の授業では、その10のキーワードが特に重要と捉えていますので、全体でシェアをした後は、私からの解説も丁寧に加えます。
そして、グループへの課題として、「日本人の精神構造はどこから来たのか」について、テキストや文献、自身の経験値から考察してもらいます。
参加者である学生は、さまざまなバックボーンを持っていますので、お茶を習っているというメンバーがいるグループでは、『茶道』と日本人の精神構造を結び付けてまとめていましたし、『ふすま』の発展と日本の精神性の関連を考察しているグループもありました。全体シェアのプレゼンテーションでは実にバラエティに富んだ内容が共有され、私自身も新たな気づきに繋がりました。

高橋
「日本人の精神構造」とは、なかなか難しいテーマですね。

斎藤
「日本人のメンタリティ」について、普段の日常生活ではほとんど気にとめることはありませんが、震災のときに改めて世界から注目されました。

しかし、日頃からそれを意識に上らせ、その良いところを誇りに思うとともに、時代に合わなくなっている部分があれば、変えていく努力が必要です。
このメンタリティは、長い歴史を通じて作り上げられたものです。

私の授業で歴史を取り扱うことが多い理由もここにあります。
稲作から始まり、封建社会、鎖国、明治維新・・・神道と仏教的思想が私たちの生活に色濃く根付いており、日本人のメンタリティ形成に大きな影響を与えてきました。
学生たちには自身の行動、振る舞いにも立ち返って、私たちのDNAとして脈々と流れている「日本人のメンタリティ」に気づいてもらいたいと思っています。

高橋
なるほどですね。「日本人のメンタリティ」を理解したうえで、外国人と接する事ができれば、日本という国をより深く理解してもらえますね。
では最後に、斎藤先生が考える『グローバル人材の要件』をお聞かせください。

斎藤
日本人であるならば、まずは日本の歴史を再認識してもらいたいですね。その上で、日本人のメンタリティ、精神性がどのように形成されてきたのか。また、日本人の特徴として語られる集団性、協調性について、欧米化した国際社会の舞台で消し去ろうとするのではなく、良い方向に発揮できる人が、ビジネスにおいても認められ成長できる人材となるのではないでしょうか。

2015年1月28日
インタビュアー
グローバルマネジメント研究所員
高橋 輝子