企業のグローバル化と賃金制度の課題(1)

リーマンショック後の急激な円高の痛手を受けた大手輸出企業はもとより、長期化しているデフレの影響によっても多くの企業は「固定費の削減」に注力してきた。
固定費の中でも「人件費」の影響は大きく、残業代の抑制のみならず給与体系そのものを見直す企業が増えた。
要するに、露骨に「賃金カット」とは言わないまでも「能力に応じた賃金体系化」を図る企業が多くなったわけである。

定期昇給や年功序列とは言わないまでも、年齢に比例して昇給・昇格の門が開かれていた賃金体系を、能力に応じた体系へと見直したのである。
こうした変化は、従業員個人に若い時に計画したライフプランを修正せざるを得なくなるという大きなインパクトを与えてしまう。
もちろん「能力に応じた賃金体系」は悪い事ではないし、若い層においては実績をあげれば給与があがることによる「仕事に対するモチベーションの向上」や「チャレンジ精神」が醸成されるという良い側面もあることは言うまでもない。

但し、民間企業で働く役員やパート従業員をも含めたビジネスパーソンの平均年収が平成23年時点で409万円であり、日本の過去の水準に比べていまだに低いことを考慮すると、能力に応じた賃金体系化が人件費抑制のための方便として利用されているとも考えられる。
出典:サラリーマン平均年収の推移(平成23年)年収ラボより
こうした一方で、現在の製造業を中心とした業界での競争の中心が、先進諸国からアジアをはじめとする開発途上国へと移行する中で、日本の賃金は相対的に高い水準であるとも言える。
物価だけの指標で比較すれば、俗に言う「ビッグマック指数(=年収で何個の“ビッグマック”が買えるか)」で比較すると東京の賃金は世界1位となってしまう。

企業のグローバル化の進展に伴い、海外赴任者の数も増加している。ここでの賃金体系の問題点は、現地採用者と赴任者との賃金体系を同じにするのか否かである。
国によって衣食住の環境も違えば、法律も税金も消費者物価指数も日本とは異なる。更に為替の問題もあるので、一概に日本円換算で比較してもいけないが、一般的に欧米に赴任した場合、仮に同じポジションでは、現地採用者の賃金が赴任者よりも高く、アジア諸国の場合は逆に赴任者の方が現地採用者よりも高い傾向がみられる。

現在のグローバル企業にとって賃金体系には課題が多く残されており、真のグローバル企業として継続的な成長をしていく為には、いかに従業員の納得が得られる賃金制度を作り上げていくかが重要である事は言うまでもない。

以下に問題点をピックアップして整理してみる。

  1. 公平な評価が全社的に(海外も含めたグローバルに)実施できるのか?
  2. 職務が同じ場合、組合員と非組合員(管理職ランク)を同じ土俵で評価できるのか?
  3. 組合員(残業代あり)と非組合員(残業代なし)との年収の逆転は仕方がないのか?
  4. 優秀でもポジション(仕事の幅や質=肩書き)が与えられなければ給与ランクは落として良いのか?
  5. 年齢で決められている「役職定年制度」とその後の「収入ダウン」は仕事への意欲を無くす主因ではないのか?
  6. 海外現地採用者と赴任者との賃金格差は是正する必要はないのか?

など、筆者が経験した情報機器関連メーカーの事例を踏まえて、次回のコラムから考察していく。

(産業能率大学 経営学部 教授  三村 孝雄)

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