宿泊産業に迫られるグローバル対応と必要なダイバーシティへの認識(5)

宿泊産業に迫られるグローバル対応と必要なダイバーシティへの認識 (5)

今回は、このシリーズの最終回として、これまで検討してきた事柄を踏まえつつ、訪日外国人客(インバウンド)誘致におけるMICE(Meeting, Incentive, Convention, Exhibition の総称)への取り組みについて考えてみたい。

大規模なMICEの一例として、2020年の東京オリンピックでは、数多くの外国人が数多くの国々から日本を訪れるであろう。また、その前後にも国際的なMICEの誘致に成功すれば、同様のことが起きる。
よって、世界各国から多くの訪日外国人客を迎えようとするのであれば、それぞれの文化や風習、また宗教といった面に配慮しなければならないのである。
「食」に関していえば、オリンピック選手団であれば、いわゆる選手村で配慮の行き届いた食が提供されれば問題ない。MeetingやConventionなど、いわば閉鎖空間(ホテル内、会場内など)で食が提供されるのであれば、その中だけで配慮がなされれば事が足りるかもしれない。
しかし、たとえばオリンピックであれば、選手団以外にも観客など大勢の訪日外国人客を迎えたいところである。
では、彼ら彼女らへの食は、どうすればよいのであろうか。

この連載記事では、筆者および筆者のゼミ生が研究対象としている、イスラム教徒の食に焦点をあてて考えてきた。しかし、食について考慮しなければならないのは、イスラム教だけではない。
一例としてユダヤ教では、「コーシャ」と呼ばれる食物に関する規定がある。ヒンドゥー教にも食に対する禁止事項がある。
つまり、「食」という人間の生活の根幹に位置する事柄についてだけをとっても、さまざまな配慮を要する側面があるということである。

これらを無視していながらインバウンドの増加やMICE誘致を促進するのはナンセンスである。
「みなさんの要求を満たす食事は提供できませんが、それでも日本を訪問してください」と言うことがおかしいのは、誰が見聞きしても当然といえるだろう。

ここに、グローバル、またダイバーシティ(多様性)という視点を持ち、グローバルマネジメント、ダイバーシティマネジメントに向けた策を講じることが急務である理由がある。「郷に入っては郷に従え」という言葉もあるが、それでは済まされないのが、宗教に根差した食である。
日本にいるのだから宗教の定めを捨てるべきとは言えない。まさに多様性を受け入れ、ダイバーシティの視点をもった対応が不可欠なのである。

日本人の人口は、今後ますます減少の一途をたどると予想されている。それに伴い、日本人の国内旅行者が減ることは間違いない。
ということは、観光産業、とりわけこの連載記事で注目してきた宿泊産業は、遅かれ早かれ訪日外国人客を受け入れる体制を整えなければ、存続の危機に見舞われることさえありえる。

宿泊産業において、ダイバーシティの視点は不可欠である。今後ますます、その要請は高まるであろう。では、いつその取り組みを始めるべきであろうか。
筆者としては、「今である」とは断言しない。各社、各宿泊施設によって、事情は異なるであろう。しかし、まずはダイバーシティの意識を抱くことについては、いま着手すべきではないだろうか。

筆者は、観光産業が、今後の日本経済を支え、その発展の重要な位置を占めると確信している。
そして、そのためには、ダイバーシティマネジメントが不可欠
であることは、当然といえるだろう。 

【完】

(産業能率大学 情報マネジメント学部 准教授 吉岡 勉)


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