グローバル対応教育における通信研修活用のポイント (第3回)

前回のコラムでは、若手ビジネスパーソンの意識と通信研修の適用範囲について言及したが、今回は、その活用と組織支援のポイントについて述べる。

通信研修プログラム活用のポイント

(1)エントリープログラムとしての活用

第1回のコラムで紹介したAさんのように日頃から英語の学習にいそしんでいるビジネスパーソンが増えてきている一方で、現実には特段必要に迫られていないなど、こうした準備に意味を見いだせない人が多いのも事実である。
そのような層に対しては、まず「グローバルで通用するビジネスパーソンを目指そう」と思わせるような動機づけと自己啓発が望まれる。

もっとも、海外派遣研修のように従業員を実際に海外に送り出して、グローバル環境を肌で感じさせることができればそれがベストではある。しかし、そのためには現地の受け入れ体制やコスト面の制約があるし、送り出す側としてもいきなり放り出すのは不安かもしれない。
まずは、通信研修のような手段を活用して、より多くの従業員のグローバルマインドを養うといった施策を講じてみてはどうだろうか。選抜型の集合研修など、より本格的な研修を受講するに当たっての導入教育として活用してもよいだろう。

(2)海外派遣前の準備としての活用

海外派遣のための準備としては、語学や海外でのマナー、異文化コミュニケーションといったところが定番であるが、それだけで十分とは限らない。

例えば、これまで部下を持ったことがない人であっても、現地に行けば管理者やリーダーとして部下やメンバーをマネジメントしなければならないケースが多い。
また、近年派遣の目的も、現地法人の管理業務から新しいビジネスの立ち上げや新規事業の開発といったビジネスチャンスの掘り起こしに軸足が置かれてきている。こうした状況に対応するためには、リーダーシップや部下の指導育成といったマネジメントスキルに加え、戦略論や会計・ファイナンスといった経営管理のフレームワークについても最低限の知識を身につけておく必要がある。 赴任前には、こうしたスキルやフレームワークをビジネスの共通言語として(できれば英語で)使えるようになっておきたいものである。

グローバルビジネスでは、語学や異文化コミュニケーション能力とともに、マネジメントスキルや経営管理のフレームワークを身につけて理論武装しておくことも不可欠だ。そのためには、最低限求められる知識やスキルを効率的に習得できる通信研修の活用をお勧めしたい。

通信研修による組織支援のポイント

(1)通信研修のメリットを生かしたプログラムの提供

通信研修には、場所や時間にとらわれずに受講できるというメリットがあるため、目的別に用意したさまざまなプログラムの中から個人のニーズに合わせて選択させたり、複数の対象者に均一の教育機会を与えることができる。

具体的には、グローバル意識の醸成や動機づけをねらいとして、新入社員や入社3年目程度までの若手従業員の一斉受講を促す「グローバルマインドセット研修」、海外赴任候補者向けに現地でのマネジメントやグローバルビジネスの常識やマナーを習得させる「海外赴任者研修」、赴任や出張の有無にかかわらず従業員の異文化対応能力の向上をねらいとした「異文化コミュニケーション研修」など、組織ニーズに合ったプログラムの設計が可能である。
この場合、通信研修にワークショップなどの参加型セミナーを組み合わせることができれば、学習効果はさらに高まるだろう。

(2)費用負担等経済的支援による自己啓発の促進

第2回のコラムで紹介したように、海外で働きたくない理由として回答者(新入社員)の7割近くが「自分の語学力に自信がないから」と答えていた。
しかし、語学を勉強したいと思いますかとの質問に対し、「自分で費用を負担してでも勉強したい」という人は2割にも満たなかった(下図)。
ただ、ここで注目すべきは、約4割強の人は、会社が一部あるいは全部費用を負担してくれれば勉強したいと答えている点である。
回答者の置かれた立場によって、英語学習に対する熱意は異なってくる。「将来グローバルで活躍したい」、「海外赴任の可能性がある」など、英語をマスターすることに積極的な人と、当面仕事で英語を使うチャンスはないというような人とでは、英語学習に対する受け止め方は異なってくるだろう。
前者のような人は、費用負担の有無とは関係なく自律的に学習することは想像するに難くない。もちろん、自分から積極的に学習するという自律的な態度が望ましいが、受講料補助のような企業からの経済的支援は、自己啓発促進のためには効果が高そうだ。

英語に限らず、ビジネススキルやマネジメントスキルの習得にあたっては、まずは通信研修のような自学自習の手段によるインプットが効果的である。ここには、経済的支援など従業員の学習意欲を促進するような具体的施策が望まれるところである。

以上、これまで3回にわたり、グローバル対応教育としての通信研修の立ち位置とその活用ポイントについて考察した。

これまでは、グローバル対応というと、語学や異文化対応など定番的なテーマが中心であったが、それだけでは不十分であり、マネジメントスキルや経営管理のフレームワークも含めて体系的に習得する必要があることは既に述べたとおりである。
さらに、伝統芸能や文化など、日本のことを外国人に説明できるような知識のインプットも忘れてはならないだろう。

これを機会に、通信研修の豊富なコンテンツをうまく活用していただき、企業における従業員のグローバル対応の一助になれば幸いである。


(産業能率大学 総合研究所 セルフラーニングシステム開発部 教材開発センター 教材開発担当課長
グローバルマネジメント研究所 所員 岡山 真司)