総合研究所の概要

お問い合わせ

資料請求リスト

~part1その4:内省する視線<前編>【ビジネス思索塾】

憂鬱になることはないだろうか。
世間には、自己責任、自助努力、自己決定、自己実現など、個の主体性と自立・自律を賛美する言葉が氾濫し、ある領域で成功した人たちは、「夢を叶えよ」「希望を棄てるな」「プラス思考で考えれば、道は拓ける」「だからあなたも生き抜いて」と意欲的かつ前向きな姿勢を奨励する。

企業では、変革、挑戦、飛躍、創造などが刷りこまれた枕詞のように標榜され、「周囲を巻き込み、新たな価値を創造し、高い成果を達成する自律性と創造性を備えよ」と期待される人材像が語られる。
やりたくてもやれないことやできそうにもないことが当たりまえに成すべきこととして強要されれば、モラルや意欲は下がりかねない。

    曾小川 久英    学校法人産業能率大学総合研究所 客員研究員

    (1)偶然性に左右される人生

    身も蓋もない話になるかもしれない。でも現実は直視すべきだろう。人生には、自分の意志では何ともならない偶然性不条理がまとわりついている。人間は分を弁えて生きざるをえない。時には断念と諦念を持たねばならないはずだ。
    まずは、単刀直入な言動が時おり論壇で物議をかもす宮崎哲弥(評論家、1962年生まれ)の言葉を噛みしめてみたい。

    「人生には当たり外れがある。なかなか認容し難いけれども、これは冷厳たる事実である。・・・・・ 当たり外れはあくまで偶然の所産である。人生に当たり外れがあるのを認めても、そこに本性的な高低や優劣や貴賎の差別を見出していることにはならない。この点で、当たり外れと不平等とは大いに異なっている」

    「無論だからといって、私達は偶然に身を委ねるべきだと言っているのではない。偶然の要素をできる限り排除し、当たり外れの度合いを少しでも小さくしていく営為にこそ人間の栄光が宿るというのは紛れもない真実である」

    「しかし、それでも当たり外れの偶然性が消滅することはない。どんなに医学が進んでも、早世する人がいれば、百以上齢を重ねる者がいるではないか。ふとした弾みで僥倖を手にする者がいれば、些細な躓きがきっかけで運命が暗転してしまう人もいるではないか。このような当否を不条理だとするのならば、そもそも生きていること自体が苦しみに他ならぬ。いや、確かに生の実相は苦に違いないのだ」(『新世紀の美徳』)


    その通りだと思う。運がいいとか悪いとか、自分の努力とがんばりでは何ともならないことが世の中にはいくらもある。全知全能の神ではない人間には偶然としか思えないことで、人生は振りまわされる。たぶん世間には「棚からボタ餅」が時おり落ちてくるのだろう。でも、そのボタ餅にうまくありつけるひともいれば、ほんのちょっとしたずれで食い損ねるひともいる(まぁ、できるだけありつこうと努力はするのだが)。
    所詮、世の中は運のいい人を見ればきりがない、でも運の悪い人もきりがない。


    勢古浩爾(1947年生まれ。洋書輸入会社を2006年に退社後、執筆活動に専念。その著書は秀逸で、ただものではなさそう。『まれに見るバカ』という抜群の著作あり)は、「人間の人生」と「自分の人生」という表現で、こんなふうにまとめている。

    「人間はだれでも『人間の人生』(簡単に言うと、運命)と『自分の人生』(簡単に言うと、意志)のふたつの人生を生きるしかない」

    「『人間の人生』はすべてを入れる器である。なんでもありうる人生である。おおむね否定的なものとして現出するが、底抜けに肯定的でもありうる。いずれにしても運命的である。『人生は無常』『人生は四苦(生、老、病、死)である』から、『人生はバラ色』『生きてるってなんて素晴らしいんだ』までのすべてを平気で呑み込む器である」

    「『自分の人生』は意志である。自分でしかありえぬ人生である。その意志によって、自分の人生は、死ぬまで、つぎからつぎへと繰り越される。人間の人生と自分の人生は縒り合わされている。これが一生懸命生きる、ということの意味である。それでもなお意志し、努力し、選択し、決断する。求めよ、さらば与えられん、ではない。『求めよ』にだけ有効な人生である。『与える』かどうかのカギは、『人間の人生』が握っている」(『ぶざまな人生』)


    だから、自己責任なんか強要されると憂鬱になるのだ。自由な競争を煽っておきながら、負ければすぐに自己責任。リスクの高い商品を推奨して、損すりゃいつも自己責任。成果主義や業績主義を導入し、がんばっても成果がでなければ自己責任。マズい結果は何でもかんでも自己責任。そんな勝手な話はないだろう。「自分の人生」になら自己責任も負えようが、「人間の人生」に自己責任は負いようがない。それも、「自分の人生」が与えられるか否かの鍵は「人間の人生」が握っているのだから。

    世界には自らが責任を問われる必要のないことで苦しまねばならない不条理、理不尽、リスクが満ち溢れている。社会システムへの不安、高度に専門化した科学技術への不安、事故や犯罪に巻き込まれる不安、国家間の緊張にともなう不安、将来生活への不安など、こうした安心社会の揺らぎに対する責任は自分自身にあるとはかぎらない。

    国民の生命と財産を守るのは国家の基本的な役割だが、個人としてこれらの不安に立ち向かう術はあるのだろうか。対処する術も武器も持たされず、自己責任ばかりを強要されれば、個は直面する不安の前に立ち尽くすだけになるのではないだろうか。

    個の論理(たぶん、「自分の人生」)は国家や社会の論理(たぶん、「人間の人生」)に優先するものなのか。自己責任を強調する言説は強者と勝者の論理の帰結ではないのだろうか。個などというものは、あやふやで、いい加減で、儚く脆いものだろう。


    生物学者で一般向けの指南書も数多く著している池田清彦(1947年生まれ、早稲田大学教授)の言葉で駄目を押したい。

    「自分固有の規範は自分で考えるほかないのである。自分の生き方は自分で決めるほかはない。いやだと駄々をこねても仕方がない。他人の考えや、他人の教えは最終的には役に立たない。これは自由であることの代償なのだ。かけがえのない自分という、それが本当の意味である。自分の生き方を、他人の意見に従って決めているうちは、善く生きることはできない。そこでうまく行かなければ、それは他人のせいである。自分で決定すれば、いずれにしてもあきらめがつく」(『正しく生きるとはどういうことか』)

    (2)変化と新しさの呪縛

    自分はもっと大きなことがやれるはず。自分の能力はこんなものじゃない。こんなところでこんな仕事に埋没していていいのか。何もせず無為に過ごすのは時間の浪費。退屈している暇はない。新しいものはいいものだ。変わることにこそ価値がある ―― と焦燥感に苛まれ、新しい考え、新しい情報、新しい技術、新しい手法、新しいビジネスにすぐに飛びつき、あくせくと嗅ぎまわる人たちがいる。

    変化が常態となり、新たなものが次々とでてくる。僅か数年で街の景色が変わり、企業の姿が変わり、溢れる商品が変わり、精神の構造までが変わってしまう。新製品、新開発、新機種、新手法・・・・・と「新」の文字に幻惑され、新しさばかりを追い求める。

    しかし、じっくりと考えてほしい。新しいもの、変わることは本当にいいことなのか。それを是とする根拠は何か。溢れる刺激に触発され、何かに追い立てられる日々を過ごしていれば、底なしの焦燥感から抜けだせる術が見つかるとでもいうのだろうか。

    すぐに「旧」のレッテルになりかねない「新」に、どれほどの価値があるというのだろうか。


    先にも触れた池田清彦は前掲書で、「人間は、オリンピックで世界新を出したり、月にはじめて行ったり、科学的な新発見をしたり、新技術を発明したりすることに、実に過大な価値を付ける、ヘンな動物なのである。ほとんどの動物にとっては、新しいことは善い生涯からの逸脱である」(『正しく生きるとはどういうことか』)と警告している。そういえば、山本夏彦(コラムニスト、1915~2002)もどこかで「何用あって月世界へ」と揶揄していた。


    確かに、過去の成功体験に過度に固執したり、昔ながらのやりかたを墨守したりしていれば、苛烈な企業間競争を勝ち抜くのはむずかしい。企業の存続には絶え間ない革新が必要であり、企業の論理、組織の論理として変化を求めるのは頷ける。しかし、どんな企業でもすべてを変えるのではないだろう。創業以来、変えずに脈々と培ってきた不動点があるはずだ。その不動点すらも変えようと試みるのは、企業の存立基盤を掘り崩す暴挙であり、あえてそうするのなら、新たな企業を立ちあげるに等しく、企業名は同じであっても、そこに企業の継続性は認めがたい。その企業の社会的な価値な何なのであろうか。

    個人の論理に立てば・・・・続きは『内省する視線』<後編>にて。

    【お断り】文中でのトピックスについては、読者の皆様方に「こうあるべき」「こう考えて欲しい」と主張するものではありません。本コラムの主旨はあくまでも、ご自身が深く考えていただくためのきっかけをご提供するものです。そのために本連載の内容に触れて、ご自身の意見(異論含む)を振り返ったり、確立いただく中で、ご自身の思考の座標軸をつくるヒントとしていただければ幸いです。

    本コラムの執筆者(曾小川久英)が担当するセミナーのご案内



    ※著者の所属・肩書きは掲載当時のものです。

    ページ先頭へ

    • 導入のご相談、提案のご依頼、各種ご質問はこちらからどうぞ
    • 資料をご希望の方はこちらからどうぞ(無料)
    • デジタルカタログはこちらから
    • 官公庁・自治体職員向け研修案内
    • 総合研究所 経営管理研究所
    • グローバルマネジメント研究所
    • サンノーWebサポート
    • SuperGrace Web成績管理システム
    • マナビバサンノー
    • sannoメール登録

    他のコンテンツを見る

    SANNOが大切にしている活動スタンス
    理想のイメージをお客様と共に創り上げるために、大切にしている活動スタンスをご紹介します。
    人材育成・研修 用語集
    人材育成・研修に関する用語集です。実務にお役立てください。