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~part2その4:曖昧さに道筋をつける<完結編・後編>【ビジネス思索塾】

企業内の研修にはリーダーシップと銘打ったものが数多ある。リーダーシップを扱った書籍や雑誌も数かぎりない。でも(たぶん)確実にいえることは、そうした研修をしても、書籍や雑誌を精読しても、リーダーシップはなかなか身につかない。すばらしいリーダーシップを発揮しているひとを模範として見習ったり、リーダーシップにかかわる行動理論(本当にそんな行動理論があるのか?)に合わせた動きに心がけたり、成功した経営者の行動パターンを模倣したり、行動傾向テストで診断された弱点を補強したりしても、結局は徒労に終わる可能性は否めない。リーダーシップは、テクニックや手法として方法論的に教えられるものではなく、長時間をかけて自らで熟成し醸成するきわめて属人的なものなのだ。

    曾小川 久英    学校法人産業能率大学総合研究所 客員研究員

    リーダーに共通する個人的な特徴や行動パターンは存在しない

    日本でも信奉者が多い経営学の重鎮、ピーター・ドラッカー(ウィーン生まれ、1909~2005)は、リーダーの基本的特性を探しだすことなど不可能だといい切っている。

    「リーダーの性格、リーダーシップのスタイル、リーダーの特性などというものは存在しない。この半世紀の間に私が出会って一緒に仕事をした非常に優秀なリーダーのなかには、自分のオフィスにこもりっぱなしの人もいれば、ひじょうに社交的な人もいた。好人物もいれば、堅物もいた。考えるより先に行動する人もいれば、何度も何度も考え直していっこうに結論をださない人もいた。温かい人柄ですぐに気の合う仲間になる人もいれば、いつまでもよそよそしい人もいた。家族のことまで話してくれる人もいれば、目のまえの仕事に関すること以外はいっさい話さないという人もいた。仕事に悪影響を及ぼすわけではないのだが、鼻持ちならないほど自惚れの強い人もいれば、やはり仕事に差し障りはないのだが、極端に控えめな人もいた。まるで砂漠に住む世捨て人のように質素な生活を送る人もいれば、派手で遊び好きでことあるごとに大騒ぎする人もいた。聞き上手な人もいれば、一緒に仕事をしたなかで群を抜いて優秀ではあったが、自分の心の声にしか耳を傾けない人もいた」(ジョセフ&ジミー・ボイエット『経営革命大全』からの引用)

    多くのリーダーに共通する特徴が多少はあるかもしれないが、こうした特徴は必ずしもリーダー全員に共通するものではないというのだ。とすれば、何をすればリーダーシップの発揮につながるのだろう。何を習得すればいいのだろうか。

    リーダーには喜んで従うメンバーがいる

    リーダーシップのポイントが要領よく整理されている『経営革命大全』(定評のある権威の研究成果を網羅的にまとめた書。リーダーシップについての解説なら、この本の第1章とリチャード・ファースン『パラドックス系』を読めば十分だろう)では、リーダーシップにかかわる自然法則を、「リーダーには喜んで従う部下がいる」「リーダーシップは相互作用の場である」「リーダーシップはひとつの出来事である」の三点に要約し、なかでも、自分のリーダーシップをふり返る鍵は、「喜んで従う部下(メンバー)がいる」かどうかだと指摘している。

    「何か価値あることをやり遂げたいと思っているリーダーは、その目的のためにメンバーを巻き込める人でなければならない。自分がメンバーの心を引きつけているか、互いに協調しているかを確認すべきである」「リーダーシップはリーダーの性格に左右されるものではない。リーダーとメンバーの人間関係に左右されるものである」「リーダーの中心課題は、仕事をしていく上での強固な人間関係を築くことであり、リーダーとは味方を選ぶのではなく、味方を集める人である。優れたリーダーはつねにメンバーがリーダーシップを受け入れやすいように、橋を架け、共通の土壌をつくる努力をしているものだ」「リーダーは『どのようにリードすればよいのか』『リーダーになるには何をしなければならないのか』を問うのではなく、『どうすればメンバーは自分についてきてくれるのか』『メンバーは何を必要とし、どうすれば味方ができるのか』を問わねばならない」(『経営革命大全』)
    リーダーシップの発揮に向けては、周囲のメンバーが喜んで従っているか、自分の想いや志に共感しているかを確認して、自らの行動をふり返るのだ。

    リーダーシップは人間関係に左右される。メンバーとの強固な関係を築くことが肝心だ。確かにそうだろう。しかし組織においては、組織の目的や目標の達成を最優先しなければならない。ときには人間関係を損なわざるをえないこともある(みんなが喜ぶ仕事ばかりではない。時には嫌な仕事を強制しなければならない)。効率的な目的・目標の達成と人間関係はそれほど簡単には両立しない。リーダーシップにともなうジレンマをいくつか確認しておきたい。


    判断の迅速さと的確さ

    判断や決断をくだす場合には、迅速さと的確さがともに要求される。的確さのためには、できるかぎりの情報を集め十分な検討を要するが、迅速さのためには短時間での決定が求められる。どの程度の情報で判断し決定をくだすか、リーダーはそのタイミングで悩まされる。(近ごろは、朝令暮改を覚悟のうえで、スピードが要求されているようだ)

    意思決定へのメンバーの参画

    意思決定にはメンバーを参画させた方が協働は図りやすく、かつ決定事項も遵守されやすい。しかし、多くのメンバーが参画すれば、多様な主張が飛びかい意思決定はむずかしくなる。主張が受け入れられなかったメンバーにしこりが残ることもある。参画させ多面的に検討することは大切だが、参画させることにともなう煩わしさは避けがたい。

    リーダーの主張とメンバーとの協調

    メンバーとの良好な人間関係を築くには、メンバーと協調し、メンバーの願望や意見を受け入れる必要が生じる。しかし自分の主張とメンバーの考えが一致するとはかぎらない。意見の衝突は往々にして葛藤につながる。メンバーとの協調を優先すれば、自分の主張を抑えることになり、結果的にリーダーシップを喪失しかねない。

    メンバーの安定願望と解放願望

    メンバーは決められた仕事を決められた方法で安定的に遂行しようとする。しかしその一方で、マンネリ状態からの解放をも願う。メンバーの役割を明確にしなければ文句がでるが、明確にすれば役割を固定的に捉え、役割以外のことをしなくなる。仕事の分担を変えないと退屈するが、変えれば不安を訴える。リーダーシップを発揮してメンバーに働きかければ、いずれにしても何らかの不満はでたりするものだ。(人間は、自由にされれば束縛を求め、束縛されれば自由を求める。厄介なものです)

    外部からの刺激と相対比較による不満

    眼を内部だけに向けていれば、異なる視点からの情報収集ができず、状況変化への対応がむずかしくなる。自組織のレベルを上げるには、外部との接触を奨励し、外部からの刺激を受けることが必要だ。しかし、良質な情報を持つ良質な他組織との接触は自組織の欠点を浮き彫りにし、相対比較による不満を誘発する。だれでも、自分と隔たりのあることにはあまり関心を持たないが、身近に接触する者の成功には羨望し嫉妬する。不満を改革へのエネルギーに変えるリーダーシップは容易ではない。(隣の芝生は青く見えるもの。すでに触れた比較する病。リーダーは、不満や羨望や嫉妬の発生を覚悟して、外部との交流を促進するのだ)


    リーダーシップの発揮には意図せざる結果がつきまとう。先頭に立って率先垂範すればよいというものではない。目的達成を強調すれば強制的な側面が滲み、集団維持に配慮すれば目的達成が危うくなる。働きかければかけるほど、かえって関係者が離反したりもする。

    リーダーシップは「目的・目標達成機能」と「集団維持機能」を中核にして構成され、「目指すべき方向性を明示し、その実現に向けて関係者に影響変化を与えること」と一般的には定義されている。

    こうしたジレンマを克服し、困難を乗り越える鍵は何か ―― 言葉の力だ。自分の考えや想いを自分の言葉で語るのだ。すぐに共感が得られるとはかぎらない。でも、自分の主張の根拠や選択の背景を、言葉を紡いで、言葉を尽くして、訴えかけるしかないはずだ。

    リーダーシップの発揮とマネジメント展開に向けて、示唆に富む二つの言葉を紹介して締め括りたい。
    まずは国際政治学者の中西輝政(1947年生まれ、京都大学教授)。江戸時代の「寛政の改革(1787~1793)」を推進した松平定信(1758~1829)の意義を強調した文脈で、「『改革者』とは徹頭徹尾『恨まれ役』にほかならない。だからこそ、改革には高い志操が不可欠になる。改革とは、不人気なものを押し切るところにその本質があるから、その実行者は志が高くなければならないのである」(『なぜ国家は衰亡するのか』)と述べている。現代にも通じるはずだ。

    最後に、文芸評論家の福田和也(1960年生まれ、慶応義塾大学教授)。「歴史は『多数決』によって変わるのではなく、責任と見識のあるひとにぎりの方々の情熱と献身によって変わるのだ、と信じていますから」(『なぜ日本人はかくも幼稚になったのか』)。歴史、すなわち世界、社会、会社、組織を統率し変革するには、責任と見識、情熱と献身的な努力が求められるのだ。曖昧さを自らで切り拓くための要諦なのだと思う。(完)

    【お断り】
    文中でのトピックスについては、読者の皆様方に「こうあるべき」「こう考えて欲しい」と主張するものではありません。本コラムの主旨はあくまでも、ご自身が深く考えていただくためのきっかけをご提供するものです。そのために本連載の内容に触れて、ご自身の意見(異論含む)を振り返ったり、確立いただく中で、ご自身の思考の座標軸をつくるヒントとしていただければ幸いです。

    ビジネス思索塾・総括

    染みついた思考パターンや馴染んだ行動姿勢はなかなか変わりません。能力は一朝一夕には磨けません。ただ、何かのきっかけを契機として、安直に投げださず、継続的に繰り返して場数を踏み、時間をかけて習慣化することで、少しずつでも変わってくるはずです。

    ~日々のチェックポイント~
    自分の頭で考える習慣は身についてきましたか、思考の座標軸は固まりましたか。
    自分の考えや自らの〈観・想・志〉を自分の言葉で端的に伝えるようになりましたか。
    世間の言説や世の中の風潮を鵜呑みにせず、疑問をぶつけながら、自分なりの異論や反論を組み立てるように心がけていますか。
    できるだけ中間領域を語るようにしていますか、問題解決的な思考に努めていますか。
    見解や企画を組み立てるときには「WHY」「GOAL」「HOW」を盛りこんでいますか。

    本コラムの執筆者(曾小川久英)が担当するセミナーのご案内



    ※著者の所属・肩書きは掲載当時のものです。

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