総合研究所の概要

お問い合わせ

資料請求リスト

非営利組織から企業を視る2/2【第3回 企業と社会、そして人~『これからの経営』を考える~】

前編 「社会的企業」と「企業の社会性」のあいだ
~産業能率大学経営学部 中島智人准教授に聞く~

「企業と社会」を考えるうえで避けては通れないもののひとつに、「非営利の組織」というテーマがあります。いわゆるNPO(Non-profit Organization)やNGO(Non-Governmental Organization)がまず思い浮かびますが、最近は社会的企業(Social Enterprise)やソーシャル・ビジネスといった言葉もよく聞かれるようになり、学生や若者の関心も高いようです。

では、本連載の第1回第2回でみてきた「企業の社会性/社会的責任」と「社会的企業/非営利活動」は、どこが違うのでしょうか。
両者の「境目」を確認し、非営利の視点から営利の活動を考えてみるために、非営利組織研究がご専門の産業能率大学経営学部・中島智人先生にお話を伺いました。

「第一義的な目的」と資源の再配分

本橋

「営利企業」と「社会的企業」の違いは、第一義的な目的がどこにあるかによる、ということですね。とはいえ、日本の企業は以前から、経営理念や社是、あるいは「創業の精神」といったもの大切にしているといわれてきました。
そこでは、「当社は営利の追求を(第一の)目的とする」としている企業はむしろ少数で、「社会的な目的」を意識して設立されているように思います。
先生のお考えでは、現実のさまざまな意思決定の場面で「第一義的な目的」を最終的には何に置いているかで、「営利企業」と「社会的企業」は線引きされる、ということになるのでしょうか。

    中島

    そうだと思います。そして、そうした企業が対象としている「社会」は、「特定の社会」ではないことに留意しておく必要があります。

    たとえば、非常に先進的な電子機器を製造している企業があるとします。その電子機器によって、私たちの生活は豊かになるし、その点でも非常に社会的な意義はあります。
    しかし、その先進的な電子機器というのは、世の中で、たとえば貧困にあえいでいる人や条件不利な方のために作っているわけではなく、その製品が使えるか使えないかは、最終的には市場の論理で左右されます。
    企業が作っているものは最終的には市場取引されますから、結局は、市場に参加している人にとっての恩恵なのです。

    しかし、世の中には、なんらかの理由によって、市場に参加できない人もたくさんいます。
    この「市場」というのは、物の売り買いの市場もそうですし、労働市場、金融市場など、「市場」と名のつくものはすべてあてはまります。「市場に参加する」ということ自体が、一般の方にとってはごく当たり前の行為であっても、何らかの事情によってそこに参加できない人々もいます。
    基本的な生活に必要な財・サービスを得ることができない、英語で言うと“deprived”(奪われた、剥奪された)という言葉がこれにあてはまるのですが、そういう人たちが必ずいるわけです。これは、市場からの疎外もそうですが、逆に、社会の中でのマイノリティであるために、そもそもサービスを提供していないというケースも当てはまります。
    そうした方々や状況に対して、営利企業は何か事業活動を行うかというと、それは難しいのではないかと思います。

    営利企業がやっていることは、市場における資源配分を最適化しようということであって、最終的に企業はそこで利益を得る、物の売り買いを通じて自分たちの活動に必要な資産や資源を調達しているわけです。
    その、物の売り買いの対象となるのは、市場に参加している人です。これには労働市場も含まれますから。従業員も市場に参加できている人になります。そうした「市場に参加している人」に恩恵が行くことを否定するつもりはまったくありません。

    しかし、では、そういう恩恵がまったく行かない人たちをどうするのか。こうしたことに応えるのが「社会的企業」だと思うんです。
    「営利企業」の資源の再配分機能とはまったく異なるメカニズムで、そして、国や自治体、公的セクターとも違ったメカニズムで、「社会的企業」は社会における資源の再配分を担っています。その資源の再配分機能という観点からも、私は、営利企業と社会的企業を区分しています。

    営利企業も非営利企業も、どちらも「社会的な目的」はもちろん持っているんですが、その「社会的な目的」を達成する前提がどういうところに置かれているかというのが、根本的に違うと考えています。

      本橋

      「市場に参加できない方」といったときに、私は近年注目されている「BOPビジネス※」が思い浮かんだのですが、これについてはどのようにお考えですか。

        中島

        「BOPビジネス」も、営利企業の側に入ると思います。BOPビジネスは、一人ひとりの所得は小さくても、その人々の「数」が非常に大きい点が特徴的で、そこに、ネットワークを作って口コミなどで広めていくなどの手法をとったりします。

        「BOPビジネス」が対象としているような社会は、全体的に疲弊しています。
        たとえば、発展途上国の貧困を考えた場合には、絶対的な貧困の指数で市場に参加できない人がいますが、社会というのは相対的なんです。私たちの価値観で見てしまうと、そうした社会は絶対的貧困ですが、でも、その社会で見れば生活は成り立っていて、日常生活が営まれている。その日常生活の中でそういうものを売っていくわけですから、明らかに市場から疎外されているというわけではないと思います。

        「BOPビジネス」は、新しいビジネスです。そして場合によっては、地域発展にはネガティブな影響を与えている側面もあることもふまえておかなければなりません。
        貧困層の方々を対象にさまざまな工夫することでビジネスチャンスが生まれるわけですが、それでも、そこに参加できない人もまたたくさん生まれてきてしまっていることを忘れてはいけない
        と思います。

          ※BOPビジネス
          BOPとは「Bottom of Pyramid」または「Base of the Economic Pyramid」の略で、世界の所得別人口構成の中で最も収入が低い層のこと。世界人口の約7割に相当する約40億人が、この層に属するといわれる。
          BOPビジネスとは、こうしたBOP層を対象(消費者、生産者、販売者のいずれかまたは組み合わせで)としたビジネスをいい、その市場規模は約5兆円とも いわれる。単に企業の利益をめざすだけでなく、低所得者層の生活水準向上や社会的課題の解決にも貢献しうる、持続可能なビジネスモデルが求められている。

          現在の興味関心事、“voluntary action”

          中島

          ところで、私が今、非常に関心をもっていることの1つに“voluntary action”があります。

          1990年ごろ、イギリスで、国との関係でボランタリーな活動が少し危機的状況に陥ったことがありました。「ボランタリーな活動って何なんだろう」と問い直す機運の中で、いわゆる「見えざる手」には2つのものがある、という議論が起こったんです。
          1つは、自分の利益を追求することによって社会の資源配分が再配分されるという、アダム=スミス流の「見えざる手」です。
          もう1つは、社会的な課題に対して、報酬や自分の利益をまったく度外視して、解決に向かって人々が力を合わせるという「見えざる手」です。後者がまさに“voluntary action”
          なんですが、そういうものによって、私たちの社会は成り立っているという考え方が出てきました。

          社会的な課題を自分自身が抱えているか否かはさまざまなケースがありますが、「社会にこういう課題があるからそれを何とか解決したい」という思いに基づく活動である“voluntary action”を、社会的な価値として顕在化できるような制度や、取り組みや、政策にはどのようなものがあるかということに今、興味をもっています。

            たとえば、どのような法人格を持って社会的企業をやるか、という問題があります。
            日本では、「特定非営利活動推進法」によってNPO法人にする方法がよくとられます。しかし、NPO法人にしてしまうと、資金調達が難しくなるんです。きちんとしたビジネスのベースとなる、出資を募ってということになると、株式会社や合同会社といった会社法の枠組みの中で、営利企業の法人形態をとらざるをえなくなってしまいます。
            法人格がその企業を営利企業か社会的企業かを決めるということではないので、株式会社であっても非営利企業と言っている企業はたくさんあるのですが・・・。

              本橋

              “voluntary action”のお話をお聴きしていると、日本では、社会的利益の追求は政府・自治体が担っているという考え方が一般的であることが気になってきます。
              「社会的企業」と「政府・自治体」との境目は、どのようなところにあるのでしょうか。

                中島

                いいご質問をありがとうございます。社会的課題の解決について、学生に聞いたり議論をしてみたりすると、「国が、もっとしっかりしなければいけないんじゃないか」という意見が非常に多いんです。

                国政の場でも少し前から、「新しい公」「新しい公共」「新たな公」という言葉が出てくるようになりました。
                「公(おおやけ)」、公共という概念の転換が求められてきているんです。昔は、「公」に対する言葉は「私」でした。publicとprivateですね。
                それと対になる、「官」と「民」という言葉があります。「公」は、昔は「官」とほぼイコールでした。
                これは例えば、2008年に「公益法人制度」というのが新しくなったのですが、それまでの、いわゆる公益法人というのは、1896年の民法に基づいている、非常に古い制度に基づいています。

                かつての公益法人制度は許可制で、国の許可が下りないと公益法人を設立することはできませんでした。そして、その許可は、基本的に「主務官庁」の自由裁量でした。
                国の省庁や官庁、地方にあっては都道府県の許可制のため、基本的に「公益というのは国家が担うものだ」ということが前提となっていたわけです。
                このメンタリティが一般市民、私たちにも非常に強く残っていて、「“公”というのは“官”が担うものだ」と多くの人々が思っています。さっきの例で言えば、社会的な目的というのは、私たちが払っている税金に基づいて、「公」、政府や自治体が担うものだ、というメンタリティが、日本においては非常に強いといえます。

                しかし本当は、そんなことは全然なく、publicとprivateについて、privateの側を少しかっこよく象徴的に“civil society”としてみると、「公」と「官」は必ずしも同じ概念ではありません。「公」自体を「民」が担ってもいいんです。

                  元々の“civil society”は、“commerce”、営利企業のことを意味していました。
                  というのは、イギリスの場合、絶対君主制の時代は、貿易なども国が管理していましたが、それに対して「自由にビジネスをさせろ」というのが“civil society”でしたので、イギリス流の元々の“civil society”は、商業と非常に強く結びついています。

                    産業能率大学経営学部 中島智人准教授/学校法人産業能率大学 総合研究所 本橋 潤子

                    この「“公”は、“官”の独占物ではない」ということが、1990年代の後半、「地方分権」や「行政改革」という言葉で、盛んに言われるようになったわけです。
                    政府や自治体の担当者は、「新しい公」を進めようとしています。これには切実な理由があります。
                    公共サービスを、もはや、国や自治体だけでは担いきれないんです。お金も、マンパワーも限界にきており、民間が担わざるを得ないんです。
                    そのため日本では、こうした意識転換を進めている最中なのです。

                    日本ではもう、15、6年になります。「社会的目的は、政府や自治体の独占物だ」というメンタリティが非常に根強く残っているのも事実ですが、ゆっくりではあっても変化はしてきています。「公」を担う社会的企業は、これから、非常に重要な役割を果たしていくと考えています。

                      本橋

                      そうした、「“公”は国や政府、行政体が担うもの」というメンタリティは、日本に特徴的なものなのでしょうか。諸外国では、どのような状況なのでしょうか?

                        中島

                        これは、日本独特のものだと思っています。異論もあるのですが。
                        日本では、市民社会の発展よりも企業社会の発展の方が非常に上手くいったと私は考えます。なおかつ、「市民」という言葉が出てくるようになったのが非常に遅いのです。
                        たとえば、1998年に成立・施行された「特定非営利活動促進法」の当初の名前は「市民活動促進法」でした。しかし、国会の審議の過程で、これが「特定非営利活動促進法」という名前に改められたのです。「市民」という言葉に対して国会でも少なからぬ抵抗感があった、といわれています。

                        「新しい公共」の議論の中で初めて、「市民」という言葉が公の文書に使われたりしましたが、「市民」という言葉が公の文書に使われることは、以前はほとんどなかったんです。最近、ようやく出てくるようになりましたが。

                        なぜそういうことになったのかというと、アメリカは初めから市民が作った国でしたが、イギリスでさえも「市民社会」というのはある意味、戦いの歴史だったわけです。権利というものを、自分たちで勝ち取ってきた歴史なんですね。そうした、「市民的な自由」というものを、自分たちで作り上げてきたのであるからそれを大切にしようという、歴史的な積み重ねやメンタリティがイギリスでは共有されていると思います。

                        しかし日本の場合は、市民が、市民であることを勝ち取ったという歴史に乏しく、明治・大正のころにはそういう機運が高まった時期もあるようにも思いますが、それも戦争や軍国主義ですべてつぶされてしまいました。では戦後、市民が勝ち取ったものが何かあるかというと、これもなかなか見あたりません。
                        そのため、残念ながら、「市民」というものが、自分たちで勝ち取ったというよりは、どこからか降ってきた新しい概念としてとらえられていて、一般の方々にはとても馴染みのないものになっていると思います。自治体でも「住民」という言葉はたくさん使うのですが。

                          本橋

                          私の関心領域である「企業倫理」では、企業不祥事の問題が取り上げられることがしばしばありますが、そこでは、「世間」という言葉がよく使われるように思います。
                          「世間をお騒がせして」というようにです。この「世間」に比べると「市民」はたしかに、よそよそしい感じのする言葉かもしれません。
                          また、ここでの「世間」は、企業にとって「市場」の意味にむしろ近いようにも思えます。

                            中島

                            権利-義務の主体のない、環境としての全体、というような意味においてですね。

                              本橋

                              そうです。逆に「市民」というと「独立」や「自立」というようなことが問われるニュアンスを感じます。

                                中島

                                社会的企業の観点からすると、そうした意味で「市民性」というのはとても重要です。
                                市民的な発意によって、自分たちに必要なものやサービスを作りあげる、というのもまた、「社会的企業」において非常に重要な要素だと思っています。

                                  (後編に続く)

                                  中島 智人(なかじま・ともひと)

                                  産業能率大学経営学部准教授。国際経営学修士、MSc in Voluntary Sector Organisations。
                                  主な研究領域は、非営利企業論、市民社会政策論。
                                  実務経験後の4年間のイギリス留学で得られた知見をもとに、実践的な学生教育を行いながら、休日には自らもまた、社会的課題解決のためのNPO活動に従事している。

                                  (学校法人産業能率大学 総合研究所 本橋 潤子)

                                  各テーマをクリックすると、内容ページへ遷移します。

                                  テーマは若干変更することがあります。予めご了承ください。
                                  著者の所属・肩書きは掲載当時のものです。

                                  ページ先頭へ

                                  • 導入のご相談、提案のご依頼、各種ご質問はこちらからどうぞ
                                  • 資料をご希望の方はこちらからどうぞ(無料)
                                  • デジタルカタログはこちらから
                                  • 官公庁・自治体職員向け研修案内
                                  • 総合研究所 経営管理研究所
                                  • グローバルマネジメント研究所
                                  • サンノーWebサポート
                                  • SuperGrace Web成績管理システム
                                  • マナビバサンノー
                                  • sannoメール登録

                                  他のコンテンツを見る